女子会

                女子会

 

 55日(土)子供の日、若女将リノは、連日、てんてこまいでくたくたになっていたが、うれしい悲鳴を上げていた。縁結びの温泉として、さしはら温泉旅館は、国際的に有名になっていた。ゴールデンウイークを利用した国内の観光客はもとより、海外からも多くの観光客が九州に訪れ、糸島の温泉街もにぎわっていた。佐賀の有田陶器市には約120万人、福岡のドンタクには、約200万人の観光客が押し寄せていた。

 

 校長の指示を受けていたリノは、女子会のために最高級の離れの家族部屋を確保していた。招集されたメンバーは、ゆう子、リノ、横山、北原、峰岸、小島の6名だった。集合時間は、午後5時と指定されていた。リノは、430分になると仲間を迎えるために南別館の玄関に向かった。445分、玄関前に到着したのは、横山、北原、峰岸、ゆう子を乗せたタクシーだった。彼らは、ゆう子の家に集合し、4人乗り合わせてジャンボタクシーでやってきた。450分、校長は、愛車のポルシェボクスターに秘書の小島を乗せてやってきた。

 

 彼らは南別館から通じる離れの一戸建(2L)高級家族部屋に案内された。このような部屋は、現在5つあり、人気があるのか3か月前にはすべて予約が完了された。利用するお客は、老夫婦、謎めいたカップル、代議士、会社役員などの常連客だった。ただし、一泊二日、一人5万円、(3歳以下は一人2万円)と割高となっていた。ゴールデンウイークには、すでに4部屋が予約がなされ、残り一部屋は常連客の老夫婦ために確保されていた。そのため、校長には、リーズナブルな部屋を勧めたが、校長は、必ず一戸建の部屋をとるように指示してきた。

 

 困り果てていたリノだったが、偶然にも一件のキャンセルがあり、一戸建の離れの部屋を確保できた。別荘のような高級な部屋に案内されたゆう子たちは目を丸くしていた。校長は、ここであれば、だれからも盗聴されることはないと安心していた。リビングに集まった6人に早速指示を出した。「夕食は7時から。会議は、そのあとで。それまでは、自由にくつろいで。今回は、すべて、私のおごりだから、好きなだけ、食べて飲んで歌っていいわよ。デザートのメロンもマンゴーもスウィーツも食べ放題よ。今日は、おもいっきし、どんちゃん騒ぎしましょう。リノには、迷惑かけたわね」

 

 女子会の盗聴をもくろんだ安田と鳥羽は、、午後3時過ぎに旅館にやってきた。リノには鳥羽が手伝ってくれるから戻ってきたと言って、二人は早速掃除と皿洗いを始めた。猫の手も借りたい状態だったため、ただ働きしてくれる鳥羽の手伝いを歓迎した。ひと段落ついて、午後6時を過ぎると二人は、マリリンを参加させて安田の住み込み部屋で作戦会議を始めた。二人はマリリンと仲良くなろうと懸命にかわいがっていた。安田は、ネコエサのチュ~チュ~を食べさせ、頭をなでなでしては、ハグした。

 

 鳥羽は、眠たそうなマリリンを見てつぶやいた。「先輩、マリリン、うまくやってくれますかね~~。リノさんについて回ってくれますかね~。寝込んでしまって、起きないってことはないでしょうか?」安田は、マリリンがもし寝込んでしまったら、チュ~チュ~を嗅がせて目を覚まさせようと考えていた。「そうだ、早速、マリリンにボイスレコーダーを取り付けようじゃないか」鳥羽は、どや顔で返事した。「準備OKです。先輩、見てください」鳥羽は、右掌に載せた2センチほどの超小型ボイスレコーダーを安田の目の前に突き出した。

 

 安田は、身を乗り出して見つめた。「へ~~、こんな小さくても録音できるのか?スゲ~のがあるんだな」鳥羽は、説明を付け加えた。「1回の録音時間は、5時間です」さらに、胡坐(あぐら)の上で寝ているマリリンに声をかけた。「マリリン、首輪を外すからね」首輪を外した鳥羽は、両面テープで首輪の裏にボイスレコーダーを張り付けた。そして、眠たそうなマリリンの首にそっと首輪を取り付けた。マリリンを持ち上げた鳥羽は、声をかけた。「先輩、ほら、見てください」安田は、マリリンのピンクの首輪に目をやった。「ほ~~、パッと見た目には、誰も気づきそうにないな」

 

 鳥羽は、録音開始の時間を確認した。「録音時間は、5時間ありますから、7時にスイッチ入れますか?」安田は、彼女たちの行動をしばらく考えていた。7時から会食して、2時間ほど歌って踊ってバカ騒ぎ。「録音時間は、たっぷりある。密会は、早くても10時から。そいじゃ、9時からオンといこう。最大の問題が一つある」安田は、腕組みをして、う~~とうなった。鳥羽は、身を乗り出して尋ねた。「いったい、どんな問題ですか?」

 

 

 安田は、両手で両ひざをポンとたたいて返事した。「メンバーの中に、一人でもネコ嫌いがいたら、この作戦はオジャンだってことだ。この作戦は、全員、ネコ好きでなければ成功しない。夕食は、7時からといっていた。それから、2時間ぐらい、飲んで歌ってバカ騒ぎする。それから、マリリンの出番だ」鳥羽は、真剣なまなざしでうなずいていた。「それじゃ、拒絶されないことを祈って、9時ごろになったら、先輩が、マリリンを部屋に運ぶってことですね」

 

 安田は、大きくうなずいた。「そうだ。9時ごろになったら、バカ騒ぎもひと段落つくはずだ。そこで、マリリンがさみしがっているといって、マリリンを部屋に持っていく。みんなが猫好きならば、キャ~~カワイ~~と言ってマリリンを歓迎するはず。こう、うまく事が運べばいいのだが」鳥羽にも安田の懸念がよく伝わってきた。「みんなが、ネコ好きであることを祈る以外ないってわけですね。マリリンはカワイ~からうまくいきますよ」

 

 鳥羽はメンバーのことが気にかかっていた。「先輩、横山さんは、H大学でしょ。校長が、わざわざ、この密会のためにアメリカから呼び寄せたんでしょうか?北原と峰岸は、三人より一つ下の後輩でしょ。そう、小島って誰ですかね。変わった、取り合わせですね。いったい、どんな女子会なんでしょうか?校長は、何か目的があって、招集したことは確かだと思いますが」

 

 安田は、さっぱり見当がつかなかったが、単なる親睦を深めるような密会ではないと考えていた。「思うに、校長は、6人に、何かをさせようとしてるように思うんだ。校長にとっては、とても大切のことを。リノから、詳しいことは聞き出せなかったが、宿泊費は、校長が支払うことになっているそうだ。リノも初めてのことで、全く訳わからん、と言っていた」鳥羽は、眠りに入っていたマリリンを抱っこしてご機嫌を取っていた。

 

 

 左腕のデジタル腕時計を見た安田は、腹ごしらえをすることにした。「7時を回った。俺たちも飯にしよう」安田は、二人分のまかない弁当を作っていた。「おい、豪華な弁当だぞ。まかないといっても、高級料理のあまりだ。ちらしずし、特上握り、ズワイガニ、クルマエビ、アワビ、サザエ、ウニ、糸島豚のとんかつ、佐賀牛のローストビーフ、こんなの食ったことないだろ~~」最近、鳥羽は金欠病で、ごちそうといえばコンビニの幕ノ内弁当ぐらいだった。「マジ、すごいっすね。ただ働きどころか、日当1万円もらった気分です」

 

 鳥羽は、特上握りのトロをポンと口に放り込み、ニコッと笑顔を作った。「先輩は、いつもこんな贅沢してるんですか。うらやましいな~。やっぱ、若旦那ですね」安田は、いつもはこのような贅沢はしていなかったが、大量に仕入れるため、時々、高級品を食べることができた。「バカ、これは、お客に食わせるんだ。今日は、鳥羽のために特別だ。リノがいいっていうから。リノにお礼を言うんだな」

 

 校長主催の会食は、リビングで7時に開始された。テーブルには南側に校長、東側にリノとゆう子と小島、西側に横山と北原と峰岸が腰掛けていた。校長は、6人の顔をゆっくり見渡し早速、話好きの校長は挨拶を始めた。「今日は、集まってくれて、ありがとう。久しぶりに、みんなの元気な顔が見られて、安心したわ。お互い、話したいことがあるでしょ。ワイワイ楽しくやりましょう。集まってもらったのは、私から、ちょっとお願いがあったからなの。そのことは、後で話します。それより、今日は、バカ騒ぎしましょう。そう、まずは、乾杯ね」

 

 校長は、右手のカルピスのグラスを高々と持ち上げた。みんなもジュースのグラスを高々と持ち上げた。「みんなの成功と日本の未来にカンパ~~イ」カチ~~ン、カチ~~ンとグラスの音が部屋いっぱいに響き渡り、拍手が起きた。校長は、今後の作戦のため近況の情報を収集をすることにした。「みんな、ガンガン食べてよ。それと、食べる合間でいいから、みんなの近況を知りたいわ。リノは、若女将だから、毎日戦争ね」

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
女子会
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