小説の未来(16)

                                  虚像の現実

 

 小説は娯楽の一つと述べてきました。娯楽だからこそ多くの人々に親しまれるといえます。小説での言葉は、読者の感情と知性に働きかけ、読者の喜怒哀楽を引き起こします。

 

 小説の特徴といえる登場人物は、あくまでも実在ではなく架空の人物ですが、特に、この架空の人物が読者の喜怒哀楽を引き起こします。そこで、なぜ、架空の人物が多くの読者に親しまれるのでしょうか?

 

 架空の人物ですから当然現実の人間とは違うのです。だからこそ面白いのですが、作者は非現実の人物と現実の人物のギャップを意識させて、単に、読者を楽しませているのでしょうか?

 

  確かに、登場人物は読者を考えて描かれていますが、本来の目的は、架空の人物を想像させて、常識としてとらえている現実の人物を客観視させているのです。私たちは、日々現実に生きています。そして、人間関係を通して、現実を言語や五感で認識をしています。

 

 現実はあまりにも当然であり、身近であるために、無意識に、現実をありのままに認識していると思っています。また、私たちは、言葉と五感で現実を認識し、この認識したものを現実と思っています。

 

 果たして、それらで認識したものは、現実といっていいのでしょうか?それは、違うのです。これは、まさに虚像の現実なのです。認識したものは、現実のほんの一部に過ぎず、しかも現実そのものではありません。現実という実態に言葉や感覚の認識で”近づいている”に過ぎないのです。

 人間は、技術をもって現実の物質を創造できます。言い換えれば、ある物質を他のある物質に変化させることができます。例えば、鉄鉱石から鉄だけを取り出し、鉄鋼を作り、さらに車や船を作り出せます。これは、現実の実体を創造しています。

 

 でも、言葉や五感で認識された物質世界は、現実ではないのです。つまり、物質そのものは現実に存在するのですが、人間の認識は、現実そのものではなく、”現実に近づく行為”といえるのです。

 

 ほとんどの多くの人は、”認識と現実を同一視”してしまいます。というのも人は生まれた時から言葉と五感で現実をとらえているため、無意識に言葉と五感でとらえたものが現実と思い込んでしまうのです。

 

 だから、読者は、言葉で構成された小説の架空世界と自分の言葉と五感で作り上げた現実世界とを比較して、言葉の世界で楽しむことができるのです。言語と現実の関係を簡単に言えば、私たちは、生まれた時から現実を言葉に置き換え、無意識に、”現実と言葉を同一化”してしまっているのです。

               未知なる脳

 

 そこで、言葉と五感はどこで作られているのでしょうか?ご存知のように、脳です。そして、私たちは、脳で作り出された言葉と五感認識を現実と思っているのです。だから、先ほど述べたように、私たちが知っている現実は、脳でとらえたところの虚像といっていい程度の現実でしかないのです。

 

 しかも、脳というものは、いまだ解明されてはいません。でも、そのことには無関心に、我々は、この未知なる脳で作り出された言葉で作り上げられた虚像の現実をありのままの現実と信じて生きているのです。

 

 生きていく上では、人間関係がうまくいく限り、信じている現実で支障をきたしません。でも、多くの人は、人間関係で何らかの悩みを抱えています。この悩みの原因には、いろいろあるでしょう。

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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