世界はこんなに美しい

つまずきの石の指輪

私はひとりぼっちでした。母は、彼氏と暮らし、私は一人でワンルームマンションに八年ほど住みました。その孤独を、一つの指輪が埋めてくれました。

 

その指輪は、不思議な力を持っていました。「上へのぼりたい、向上したい、」という気持ちをたくさん吸収してくれました。毎日頑張って書きたい、という気持ちを支えてくれました。私は幸せだったと思います。

 

この、「上昇欲」は、カントの、「純粋理性批判」への原動力と、不思議なほど似ていたはずです。

指輪は、それを吸収する、しかし、「つまずき」も表すものでした。何故なら、カントもまた、孤独な哲学者であり、自分の理想の追求を、ほとんど人に打ち明けずに一人で哲学したからです。

つまずきの苦しみ

書くことがなくなり、一日の終わりがくると、私は苦しみぬきました。私は精神を病んでいたので、働いてはいなかったのです。「寂しい」と言えない私は、指輪を壁に投げつけ、哲学をやめたいと思いました。

実は、孤独の苦しみの中、上へと進む図が、孤独の中、壁を壊し、カントの世界を築いていったのです。上昇、それが純粋理性批判を築きました。私はその世界がどこかにできていると、信じています。

最上階

ついに、図は、最も美しい世界に到達しました。最上階です。私はまだ指輪を持っていました。私の周りの世界までも、美しさを極めました。義理の父を母に紹介され、立派なマンションに移り住むことを、私は母と義理の父に許可してもらいました。私はあの指輪と一緒に幸せになれるはずだった。

 

しかし、母が、私の幸せを奪いました。私の心の友の指輪をバカにして、持つことを禁じたのです。

ガラガラと、私の支えは崩れました。今思うに、指輪には、カントの哲学がたくさん詰まっていたと思うのですが、私はその指輪を失いました。

私は、それからも哲学を続けました。しかし、指輪なしでは、最上階にはいられませんでした。ガラガラと崩れ去った世界で私はまた孤独に暮らし、せっかく立派な人々を義理の父に紹介されてもうまくつきあえず、心はどんどん病んでいき、私はA病院という、精神病院に入院となりました。

 

入院

しかし、入院してからも、私は紙とペンを売店で買い、哲学を続けました。しかし、何回上昇の哲学をきずいても、すぐにガラガラと崩れるのです。

 

ああそうか、お守りだったんだ、あの指輪は、哲学したい、という思いをずっと吸収していたから、なくてはならないものだったんだ、と私は思いました。しかし、一個だけではだめです。何故なら、上昇して、自分なりの哲学の答えを出し、いちばんきれいな景色を見たのなら、そこにとどまれるためのもう一個のお守りが要る。

 

何回か入院して、退院した私は、パワーストーンのようなネックレスを、色違いで二つ買いました。

 

それを捨てて、またすぐに崩れる塔をたてたい欲求と戦っている私に、訪問看護士の所長さんは、言いました。こんなに素敵なネックレスなんだから、ぼくと、主治医の先生が入っていると思って大事にして、苦しい上昇の哲学はやめるんだよ。そうしないとまた病気が悪くなるから。

karinomaki
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