夢のネックレス

 その時、ピースがニャ~~と言って亜紀のひざ元に跳び乗ってきた。「ピース、ヒフミンったら、プロをあきらめるんだって。亜紀は、どうしていいかわかんない。ピースならどうする?」ピースもわかないという顔でニャ~~ンと答えた。その時、ピースのオーラを感じた。「ピースにお願いがるんだけど」ピースは、いやな予感がしたが、聞いてあげることにした。「まあ、亜紀ちゃんの頼みだったら、聞いてあげてもいいけど」

 

 亜紀は、自分の口からあきらめないように言っても、ヒフミンは快く思わないと思ったが、結婚したいほど好きなピースにお願いされれば、きっと、気持ちが変わると思った。亜紀の脳裏に“王将のネックレス”が思い浮かぶとピースを見つめ真剣にお願いした。「ピースにお似合いのネックレスを作るから、それをかけてくれない」ピースは、そんなことぐらいであれば、大げさにお願いしなくともいいじゃないと思った。

 

 翌日、ピースがベッドでスヤスヤと寝ていると、鈴の音がした。亜紀が首輪をつけていた。気になったピースは、亜紀に尋ねた。「いったい、どんな首輪をつけたのさ」亜紀は、ひょいと立ち上がり、引き出しから手鏡を取り出してきた。手鏡に映し出されたピースの首元には、ブサイクな意味不明の物体が鈴の横に取り付けられていた。漢字が読めないピースは、ひげをピクピクさせて尋ねた。「ちょっと、これは何なのさ。ちっとも、かわいくないんだけど」

亜紀は、ニコッと笑顔を作り、お願いした。「これは、ヒフミンに奇跡を起こすお守りなの。ピースが、このネックレスをつけていてくれれば、きっと、ヒフミンの気持ちが変わるはず。ピースと結婚したいぐらい、ピースのこと大好きなんだから。ヒフミンに抱っこされたら、ニコッと笑顔を作ってね」ピースは、イヤなこった、と思ったが、亜紀ちゃんのお願いであれば、しぶしぶ我慢することにした。

 

昨日も一昨日も遊びに来なかったので、今日あたりは、ヒフミンが遊びに来る予感がした。昼食を終えて、亜紀が窓際でピースと戯れていると、案の定、ヒフミンは、植木の外から手を振って合図を送ってきた。いつものようにベランダに飛び出しピースを両手でつかみ高く持ち上げ、ぶらぶらと振って、ヒフミンをおびき寄せた。能天気なヒフミンは、人目も気にせず大声で叫んだ。「ピース、大好き~~」

 

 ガサツなヒフミンはいつものようにドタドタドタと音をたて二階に駆け上がってくると、素早く亜紀からピースを奪い取りギュッと抱きしめた。一瞬、ピースの首元に目が行った時、ヒフミンの大きな目が点になった。鈴の横に“王将”の駒があった。しばらく黙っていたヒフミンは、グイッとピースを見つめると、チュ~~とキスをした。亜紀は、心で手を合わせた。そして、神に祈った。“ヒフミンがプロになれますように。神様、お願い。神様、お願い。”

春日信彦
作家:春日信彦
夢のネックレス
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