ま青の淵

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1

心のそこはかとない場所
そこには不思議な真っ青な淵が
存在するという・・・



かなたはまたこの不思議なブルーの揺らぐ世界に
来ていた。
ここは青が揺らぐ淵、どこかも分からない場所
闇でもない空の青とも違う、海の青とも・・・
心の落ち着く青い淵が広がっている。
現実を忘れたくなって眠りに落ちると
いつもこの世界に引き込まれるのだ。
音の無い色だけの世界、ここは考え事をするには丁度いい。

初めてこの世界に引き込まれた時はかなたも驚いた。
丁度会社に入って初めてできた友達の退職を知らされた日。
友は「おまえは元気で頑張れよ。」と笑顔で別れを告げた。
一緒に居酒屋に飲みに行って
帰って一人の部屋でやけ酒を飲んだ。
(去っていく奴はいい。でも残された俺は??)
かなたの心を割り切れないやるせない思いが巡って
かなたは深酒をしたまま床に倒れこんだ。
それがこの青い淵に来た最初のきっかけだった。
最初は自分は死んでしまったのではないかと疑った。
でもまた引き込まれたように現実の世界で目覚めるのだった。
(不思議な俺だけの世界)
かなたはそう思っていた。




2

もうここへ来るのは何度目か
かなたはまた真っ青な世界に佇んだ。
ここは何度も歩き廻っている。
闇では無く視界もある。蛍が時々飛び交う。
歩き廻るうちにここが淵なのだと気がついた。
中央が窪んでいて外へ行く程に登っていく感覚がある。
そして不思議なことに遥か頭上に星空が見えた。
たまにもうこのまま戻れずに死んでしまうのではないかという
焦燥感に駆られて叫んでみたこともある。
「おーい、誰か居ないのか?」
でも辺りは静寂に包まれるだけだった。


かなたは毎晩のようにこのま青の淵を訪れるように
なっていた。
現実から逃れたかったからだけでは無い。
かなたはこの青の世界で不思議な声を聞くように
なったからだ。
女の子の声、時々泣いている。
かなたはその声に耳を澄ませた。
「う、う、なんで!どうして!」
ある時は嗚咽しているようだった。
「まひる、もう誰も信じない!」
そんな声が聞こえた時もあった。
(まひるちゃんていうのか?)
かなたは声を限りに叫んでみた。
「おーーい、聞こえるか?俺は此処だぞぉ!」
でも応答は無かった。
時々声が聞こえるまひるという少女のことが
気になって気になってしょうがなかった。
かなたはいつしかまひるに会いたいと強く願うようになった。

3

この淵に通うようになってもう何年経つだろう。
この世界に来るようになっても変わらない生活。
かなたは蛍の群れを見てから空を仰ぎ見た。
今日はいい気分だ。不思議とかなたの心は晴れていた。
(あの子に会えないかなーー)
そんな時声が聞こえた。(あの子だ!)
「まひる、悲しい・・・でも頑張る・・・」
かなたは叫んだ「まひるちゃん、此処においでよ!」
そしてしばらく間があった後、数十メートル位先で
輝く発光体が現れた。
それは暫くすると人型の光であることが分かった。



「けほ、けほっ」まひるは咳き込みながら目覚めた。
(!!!ここは何処?)
辺りを見回すと圧倒的な青の世界が広がっている。
(嘘でしょ?夢?)
「おおーい、此処だよ!」
いきなり呼びかけられてまひるは飛び退きそうな程に驚いた。
「あ・・・・」
声のした方を振り返ると前髪をさらりと垂らした
細身で長身な男の人が手を振っていた。
(!!!)
まひるは恐る恐るかなたへと近づいた。
かなたはまひるに握手を求めるように手を差し出していた。
警戒心の解けないまひるはかなたの顔をじっと見つめる。
「はじめまして。不思議な世界へようこそ。」
かなたは言った。
「俺、かなたって言うんだ・・・まひるちゃんでしょ?」
「どうして私のことを・・・あなた死んじゃった人?」
自分の名前を呼ばれて、ますますまひるは警戒する。
「ごめん、ごめん、驚かせて。
ここは夢の中で時々訪れてしまう世界なんだ。
僕はちゃんと生きてるから安心して。」
かなたはまひるに会えたことが嬉しくて微笑む。
「夢の中・・・私死んじゃったのかと思った。」
まひるの顔に少し安堵の色が伺えた。
でも少し考え込んだようにまひるは言った。
「でも、夢の中で私達が会うなんておかしいじゃない!
それに何で私の名前を知ってたの?」
何か妖怪か何かに騙されているような気分にまひるはなっていた。
まひるはかなたが思っていたよりも気が強かった。
かなたはまひるをなるべく落ち着かせるような答えを
必死で考えた。
「うーーん、説明するのは難しいんだけど・・・
悩み事があると夢の中でこの淵に落ちちゃうんだ。
でも、ここで今まで会ったことがあるのは君だけなんだ。
時々ここで君の声を聞いてた。
まひるちゃんは悲しかったんだろ?」
見透かされたようなかなたの受け答えに
まひるはおろおろしだした。
(私の声を聞かれていた?)
まひるは恥ずかしさに顔がかぁっとする気分だった。

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haru
作家:haru
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