ホワイトレディー

話せば分かる

 

長崎で人気急上昇中の白いハトたちは、ホワイトレディーと子供たちに呼ばれ、今日も観光客のために平和祈念像の左手甲の上でカメラ目線のキュートなポーズを披露していた。ミーはケイにささやいた。「ね~、この前、祈念像の頭の上で胸を突き出して、偉そうにふんぞり返ったブサイクな白いハトを見たのよ。ケイは見たことない?」ケイは、首をかしげ、返事した。「見たことない。ブサイクって?」ミーは、小さくうなずき、話し始めた。「ハトにしては、バカでかいのよ。大きさは、カラスぐらい。ハトの十倍ぐらいある真っ黒いくちばしでさ~。そうね~、真っ白いカラスのようなブクブク太った白いハト、と言えばいいのかな~」

 

 ケイは、またもや首をかしげて返事した。「バカでかくて、ブサイクな真っ白いハトか。そんなハトは見たことないよ。それって、ハトじゃなくて、サギの親戚じゃない?」ケラケラとミーは笑った。「サギ?それは違うわよ。あんなブサイクで下品なサギは、いないわよ。しかも、ブッチョくて、足は、短いんだもの。あ、もしかして、アメリカからやってきた肥満のハトかも。ハンバーグの食べすぎかもね」

 

 今度は、ケイが大声でハハハと笑った。「え、ハトは、肉食じゃないでしょ。もしかして、遺伝子組換えトウモロコシの食べ過ぎで、肥満になったんじゃない。きっと、そうよ」ミーは、大きくうなずき、納得したような顔で話し始めた。「でも、食べ過ぎで肥満になるのは分かるけど、クチバシまで大きくなるのかしら?不思議だわ~」ケイも、うなずいた。「そう言えば、そうね。クチバシがバカでかいと言うことは、新種のハトと言うことよ」

ミーは、大きくうなずき、同意の返事をした。「そうね。日本には、あんなに大きなクチバシのハトはいないから、きっと、アメリカにしかいないハトね。最近、品種改良された白いハトよ。もし、アメリカに戦前からいたなら、もっと早くに日本にやってきたと思うんだけど。そう思わない?」ケイは、首をかしげた。しばらく考え、話し始めた。「確かに、やっぱ、最近作られた新種の白いハトじゃない?遺伝子組換えをされたハトかも?」

 

 ミーは、フム、フムと二度うなずき、話し始めた。「なるほど、なるふど、遺伝子組み換えか。体の大きさを考えると、もしかしたら、ブサイクな白いハトは、カラスの遺伝子組み換えによって作られた白いカラスじゃない。白い羽を真っ黒にしたなら、カラスじゃない。人間がやることったら、下品極まりないから。ブサイクな白いカラスを作って、私たちのようなカワイ~白いハトを皆殺しにしようと思っているんだわ。人間って、陰謀が好きだから。きっと、そうよ」

 

ケイは、ちょっと首をかしげ、疑問を投げかけた。「でも、どうしてかしら。平和には、カワイ~白いハトのほうが、似合っていると思うんだけど。ブサイクな白いカラスなんて、平和には、似合わないわよ」ミーは、目をキョロキョロさせて、返事した。「だから、人間は、何かたくらんでいるって、言っているじゃない」ケイは、きょとんとした顔でたずねた。「いったい、どんな陰謀?」

ミーは、頭をクルクル回して考え、ひらめいたかのように答えた。「だから~、陰謀じゃない。ほら、あ、そうだわ。平和って、暖かくて、純潔で、私たちみたいにカワイ~イメージじゃない。そこよ、平和のイメージを変えようと思っているんだわ。平和は、ブサイクで、不潔で、とっても醜い、って言うイメージにしようと、たくらんでいるのよ。きっと、そうよ。現に、平和な日本に、不潔な原発をいくつも作っているじゃない」

 

ケイは、まったくわけが分からないと言う顔でたずねた。「それって、こじつけじゃない。人間が、どんなに賢いって言っても、そんな手の込んだことはやらないでしょう。やっぱ、カラスの嫌がらせだと思うわ。白くてカワイ~私たちへの嫌がらせに違いないわ。黒い羽を白く染めているにきまってる。きっと、カワイ~私たちに嫉妬してるのよ。カラスは、頭はいいけど、心は、人間みたいに、下品って事よ」

 

ミーは、小さくうなずき、腕組みをして答えた。「そうか、カラスの嫉妬ね。それも、一理あるわね。私たちが、かわいすぎるのが、問題ってことね。ほんと、ミーとケイは、カワイ~ものね。私たちって、かなり人気があるみたいよ。修学旅行でやってくる子供たちなんか、私たちのこと、カワイ~、カワイ~、って言ってるし。カワイ~って、ちょっと罪作りかしら。カラスのねたみをかっているんだものね」

ケイは、少し心配になってきた。「カワイ~白いハトって、これからイジメられるんじゃない。黒いカラスからだけでなく、腹黒い人間からも。人間んって、私たちみたいに純潔じゃないでしょ。だから、かわいくて、真っ白で、純潔の私たちをねたむと思うの。怖くなってきた。きっと、白いハトは、腹黒い人間に皆殺しにされるわ。そして、ブサイクな白いカラスを平和のシンボルにすり替えるに違いないわ」

 

ミーは、子供たちに聞こえるほど大きな声で諭すように話し始めた。「ケイ、そんなに怖気つくことはないわよ。カワイ~私たちは、子供たちという強い見方がいるじゃない。子供たちは、ちゃんと分かっているのよ。白いハトが平和のシンボルだってことを。でも、あんな、ブサイクな白いカラスが、これから増えると思うと、気味が悪いわね。いやだわ~、寒気がしてきた」

 

ケイも、ブルブルと身震いした。おなかがすいたミーとケイが我が家に帰ろうと翼を少し持ち上げたとき、ゴホン、ゴホン、と大きな咳払いが頭上に響き渡った。二羽が、右上に目をやると、祈念像の頭上で、今うわさしていた白いカラスが腕組みをして二羽をにらみつけていた。キャ~~、ケイが悲鳴を上げた。そのとき、白いカラスは、やさしく声をかけた。「ちょっと、君たち。自分勝手な解釈は、いかんな~。俺は、君たちに危害を加えるつもりもないし、ねたみもまったくない。そんなに、怖がることはない」

春日信彦
作家:春日信彦
ホワイトレディー
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