急峻な石段を下りつつ、遥かな海原を見やる。
海からの冷たい潮風が人気のない境内を吹き抜け、木々の梢がザワザワと音を立てる。
年の瀬も押し迫り、あと半月ほどで年が開ける。
世の大半の神社は新年を迎える準備で大わらわ。
だが、そうした慌ただしさが洲崎神社には微塵もない。
何か願い事があり、それを叶えてもらうために足を運ぶのであれば、これほど無愛想な神社はあるまい。
だが、他に参拝客が誰もいない状況下で、神の囁きに耳を傾け、心を通わせようと願うのなら、これほど適した神社もない。
石段を下りて再び海抜レベルに降り立つ。
大鳥居からフラワーラインの方向に目を向けると、海へ向かって細い道が伸びていることに気付いた。
その小道を海へ向かうと、突き当りにもうひとつ鳥居が見えた。
海から舟で参詣する氏子を迎え入れるための浜鳥居のようにも見える。
こちらが一の鳥居で、石段の下に立っていたのが二の鳥居ということになるか。
空気が澄んでいれば鳥居の中から富士山が望めるというが、生憎この日は大気が霞み霊峰の勇姿を拝むことは叶わなかった。
一の鳥居近くの説明板によると、この先に「御神石(ごしんせき)」なる“聖跡”が鎮座している…とある。
長さは2.5メートルで石質は付近の岩石と異なるそうだ。
御神石は竜宮から洲崎大明神に奉納された2つの石のひとつ。
もう1つは対岸の三浦半島に飛んで行き、現在は浦賀の西にある安房口神社に安置されている。