呟きが血煙に乗って、言の葉を伝えようとするように、一つの方向へ飛び去る。
……そいつは、すぐに現れた。
「へっ。テメェ、随分と派手にやってくれたじゃねぇか」
ドスの利いた低音が脩の背後に響く。それを聞いた脩は口元に小さく笑みを零した。
どうやら、あの呟きは無事に届いたらしい。一九〇センチは軽く超えているであろう、ブリーチで派手に染め上げたブロンドのオールバックが夜風を切り、特注品と思しき鮮やかな黒の特攻服を纏ったそいつは、先程脩がぶち砕いた手下の残骸をバックに、悠然と仁王立ちしていた。
「何だい…………悪名高き弩羅厳会総長とか言うからどんな厳つい野郎かと思ったら、なかなかどうして男前じゃねぇか」
「野郎、何のつもりでこんな事をしでかした? 返答次第じゃただで済まねぇぞ」
「……五月蝿く騒ぐテメェ等が癇に障った。それ以外に理由がいるか?」
「ふん。癇に障ったら殺すのか。どうやら腕は立つらしいが、頭の方はさっぱりらしいな、貴様は」
……よく言うぜ。そいつはテメェ等だろうが。敢えてそれを言葉には出さず、その意識を右腕に集約させ、体内を流れる強大な力を碧のスパークとして具現化させる。脩の“破壊の力”…………。
それは学会始まって以来の、狂気の天才科学者たる父が提唱したプロジェクトの産物。
弩羅厳会総長たる眼前の男の口元からふっ、という音が漏れるのを、脩は聞き逃さなかった。
“こいつめ、余裕かましやがって……!”脩の怒りはスパークの輝きを更に高め、その眼の烈しい輝きも更にその輝度を上げていく。
今に見ていろ。テメェは手下みたいに綺麗に死なせてはやらない。その鬱陶しい面も、似合いもしない特攻服も、テメェをテメェたらしめている全てを、この“力”でこの世から残らず叩き出してやる。
脩の中に迸る碧の破壊の波動は、あと少しで最大出力に達する。コイツを男の土手っ腹に叩き込めばいい。それだけで、奴の体は粉微塵に消し飛んで跡形も無くなる。
奴を完全に潰す。そのために、姫鶴脩はここにいる…………!!