遣い人(ユーザー)。
魔女の用いた西洋の魔術、修験道や陰陽道に代表される東洋の呪術、気功、交霊、ESP、ヒーリング…………。
現代科学の及ばぬ人の心……思いが生む力……不思議な力を、それこそ手足の如く自在に使いこなす存在の総称。
己の念を物体に送り込む事でその手で対象に直接触れる事無く、重量や大きさに関係なくあらゆる物を動かす能力……テレキネシス。
この絶大な力を持つ弩羅厳会総長もまた、魚から猿、そして人という悠久の時と進化を経た先の、更なる進化形たる遣い人の一人…………!!
「だからどうだってんだ!?」
その総長の返答はあまりに粗暴な、あまりに素気ないそれだった。
「まぁ、確かにコイツは便利だ。遠くの物や金を易々と盗ったりも出来るし、分厚いサツのバリケードだって退かす事が出来る。そして当然、こんな事もなぁ!!」
叫びとともに再びテレキネシスを発動した総長の手から……斃された仲間のバイクの残骸が放たれる。標的は勿論眼前に立つ脩だ。
三〇〇キロを言うに超える七五〇ccバイクの残骸は恐るべき速度を持って宙を舞い、哀れな犠牲者たる脩を押し潰し……。
「分かってんのかぁ? 要するに、俺は選ばれた人間なんだよ。この力はこの世で最強を名乗ることが出来る最大の権利だ! コイツがある限り誰も俺を倒せねぇし、俺を裁くことも出来やしねぇ!! 分かったらクソガキはとっとと跪いて俺様の靴でも…………」
「確かに、な」
は、しなかった。総長の力を受けて宙を舞ったバイクは空中で大爆発を起こし、橙色の炎と碧の光が、辺りを染め上げる。
両の掌から光を迸らせた脩の面が、総長の烈しい怒りを更に滾らせる。総長はギリギリと歯を鳴らしながら脩を睨みつけていた。
バイクを叩き落した脩は改めて改めて総長をキッと見据える。奴の下卑た笑いさえもその全てを焼き付けんとばかりの、鋭い眼差しで。
「確かにテメェ等遣い人は選ばれた人種だ。クロウリーの唱えた“汝の欲するべきところを為せ”という言葉の体現者だ。その力を己の中で眠らせて腐らす事無く、己自身の為に最大限それを振るう……。ある意味じゃあ、一番人間らしいと言える生き物だ。だがよ……」
「あぁん? 結局テメェは何が言いてぇ!!」
「“力”は決して、誰かを傷つけたり騙したり殺したりしていいという許可証(ライセンス)じゃねぇ。そんな権利は、この世に生きる誰にもねぇ…………!!」
自分にとっての悪……この場のぶつけどころを見出した脩の力が、一際強く輝きを放つ…………!!
「バカかテメェは! 俺達にはどんな法律も通用しねぇんだ。要は何をしても許されるんだよ! テメェも遣い人ならそんぐれぇ分かってんじゃねぇのか、あぁん!?」
「…………そうかもな。俺達の力が“荒唐無稽な迷信”である限り、昨今のザルみてぇな人の法はテメェ等の罪を裁けねぇし、罰も下せやしねぇ」