奇妙な家族

 人間と宇宙人とを比較できないとなれば、地球上の生物といろいろ比較してみる以外に人間の特徴を明確化する方法がないことになる。したがって、科学者たちは、人間と動物を比較し、人間は動物から進化したと結論付けている。その真偽は、別にして、人間は、地球上では最も発達した脳を持っている。この脳が、言語を生み出し、ものを加工し、ものを作り出し、自然環境を変化させてきた。

 

 人間の身体は、他の動物とかなり違っているが、これも脳の違いから来るものと考えれば、人間の特筆すべき特徴を脳と考えてもいいだろう。脳の中でも、言語中枢こそ人間の最大の特徴といえよう。身体的能力においては、人間以外の動物のほうが優れている場合がある。たとえば、走ったり、泳いだり、ものを持ち上げたり、などだ。言語に関しては、人間が最も秀でているといえる。他の動物にも言語らしきものはあるが、人間が作り出す言語と比較したならば、良質ともに、比較にならないほど程度が低い。

 

 今、人間の脳以下の脳が、地球上に存在するのは分かったが、そこで考えてみたいことは、人間の脳以上に優れた脳が、宇宙のどこかに存在するのかどうかだ。今、脳という言葉を使ったが、宇宙のどこかには、「人間の脳」とは別の「脳以上の物質」があるのかどうか知りたいものだ。おそらく、このことは誰しも思うことではないだろうか。もしあるとするならば、「脳以上の物質」は人間が使う言語を使わずに、コミュニケーションできるかもしれない。

 われわれは、人間の脳を血眼になって研究し、できれば、精子や、卵子を作り出せないかと躍起になっているが、人間の脳が、生命を人工的に作り出せるようになるまでは、かなりの時間を要するに違いない。人間の脳が、どの程度のものかは誰も分からない。今までに、多くの天才たちが、いろんなものを発明し、革新的な理論を発表してきたが、果たして、「脳以上の物質」から見たならば、これらにどんな評価を与えるのだろうか?

 

 天才といえども、脳の活用には限界がある。まず考えられることは、細胞の寿命だ。いわんや、凡人たちにとって、脳を最大限に活用することは、至難の業だ。天才たちが最大限に脳を活用して、ある分野において、優れた業績を残していたとしても、それも脳の活用からすればほんの一部でしかないといえる。天才も凡人も脳の活用について知りたいことは何か?おそらく、脳を最大限に使いこなすための「脳の使い方」ではないだろうか。

 

 それが分かれば、天才も凡人も可能な限り有効に脳を使いこなせることになる。今注目を浴びている脳は、「グリア細胞」だが、この脳の使い方については、まだまだ研究が必要のようだ。脳の有効利用に必要なことは、精神的なことからアプローチすると、あらゆる事象についての考え方の基本となる宇宙の論理学を習得することだ。また、脳物質からアプローチすれば、ニューロンとグリア細胞の相関的なフル活用だ。

 まだ、人間の脳は、未知なる物質だ。かなり研究がすすんでいるが、おそらく、脳という物質のほんの一部しか解明してないように思える。さやかは、地球人の脳を宇宙において高度に発達した物質で、地球上で最も重要な資源と考えている。だが、「脳以上の物質」の存在を考えたとき、人間の脳の限界を痛感している。というのも、動物が共食いするように、人間も戦争という形で共食いするからだ。

 

 脳が脳を破壊する行為は、「脳の進化」といえるのだろうか?「脳の進化」とは、いったいどういうことなのだろうか?天才が、脳を最大限に活用したとしても、それは活用したのであって、脳を進化させたわけではない、といえる。それでは、「脳の進化」とは、いったいどういうことなのかを改めて考えさせられる。脳は、天才のように高度に活用しても、進化しないのではないか?

 

 天才も凡人も、「脳以上の物質」を夢見るが、やはり、今のところ夢でしかないようだ。とりあえず、今ある「人間の脳」という地球上の資源をいかに有効利用するかを考えることが先決だが、天才たちは、むしろ、このことを実践することに手を焼き、脳の破壊行為に走っているように思える。未知なる宇宙において、人間の脳は、いかなる役割を果たしていくべきなのか、誰も答えを出すことはできない。

 さやかの願いは、脳資源を有効利用し、脳を進化させることだが、そんな夢を見るばかりで、今、考えている間も行われている「共食い行為」に悲しんでいる。人間の脳が、「脳以上の物質」に進化する時は、いつやってくるのだろうか。永遠にやってこないかもしれない。でも、夢は永遠に見続けたいものだ。今言えることは、人間という生物が永遠に存在するとするならば、「悲しみと喜び」が永遠に存在するということだ。きっと、さやかは、死ぬまで実現しない夢を見続けることだろう。

 

                   拓実の想い

 

 アンナの卵子と拓也の精子の合体によってできた受精卵の細胞分裂は、ほとんど人間の形態をなすまでになった。その生命体は、静かに、しかも急速に、情報の集合体となり続けている。また、大気圏の生物としての準備を続けている。すでに、脳という物質は、出来上がっている。彼の脳の一部では、猛烈なスピードで、宇宙の概念を構築している。じっと目を閉じた彼は、非言語情報の中で遊んでいる。

 

彼は、脳が形成し始めてから、独り言を言い始めていた。情報を操作している生命体をボクとしておこう。ボクは、大気圏に出現したとき、拓実という名前を与えられる。この名前は、ボクをお腹の中で育てているアンナという女性、ボクの母親、拓也の妻、が考えた名前だ。ボクは、とても気に入っている。

春日信彦
作家:春日信彦
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