僕と彼と彼女の間

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その八

僕と裕ちゃんは連れ立って駅への道を辿った。

デパートは駅のすぐ近くだ。

いつもは通勤時と会社、学校の終わる時間帯しか人の行列はできない

決して立派とは言えない地方都市の端くれ・・・

公園から駅までは十五分位で着く。

サラリーマンの親父もこの駅から通勤している。

サラリーマンには盆休みしかないから大変だ。

浩の家から駅までは近いが、山崎の家からだと駅まで三十分はかかるだろう。

中学生の僕達には活動範囲は限られているが、

でも、僕達の家は駅から近いから恵まれている方だろう。

裕ちゃんはデパートが近づくと懐かしそうに話した。

「浩君、よくこの商店街でいたずらして、叱られたね。」

「ああ、懐かしいな。」僕は裕ちゃんの話にあいずちをうった。

「もう、あんなことできないな。問題起こしたら試合に出れないよ。」

裕ちゃんはまるで大人のような口調で言う。

僕は決してガキ大将ではなかったけれど、小さないたずらはしょっちゅうだった。

小学校の通信簿には落ち着きが無いと書かれたものだった。

(そう言えば好きな女の子もころころ変わってたな~~

小学生の女子ってまだ子供だよなーー)

浩はぼんやりとそんなことを考えていた。

「裕ちゃん、もてるだろ?」

気が付いたらそんな言葉を裕ちゃんに向かって呟いていた。

裕ちゃんの返事は・・・

「なんかさ、バスケやったり、背が伸びたりで、女子の僕を見る目が変わってさー。

皆、見た目で態度変えてさー・・・

小学校の頃なんて猿扱いだったのに、皆単純だよぉ。」

「裕ちゃん変わったもんな。大人になったよ。

僕なんて陸上挫折しちゃって取り柄ないもんな。」僕は呟く。

「いいよぉ。浩君は自由で・・・

僕だってメンバーに選ばれなかったら挫折するかも・・・」

「お前は頑張れよ!」僕は裕ちゃんだけは負けないで欲しいと心から思った。

僕達は夏休みに入った開放感と久しぶりに会った嬉しさで、

商店街を話しながらぶらぶらとしていた。

気になっていたデパートは後で寄ることとしよう。

「あ、浩君!肉屋さんのコロッケ食べよう!」

「ああ、いいね。」僕達は少し欲張ってコロッケを二つずつ買った。

アーケードのベンチへと腰掛けコロッケを頬張る。

ポテトとお肉の絶妙なハーモニー。出来立ての熱々だった。

アーケードは七夕のお祭りも終わり今度はお盆に向けて姿を変えているようだ。

普段は学校とは別の方角にある為、あまり来ない商店街に懐かしさを感じていた。

僕と裕ちゃんはおもちゃ屋さんに入って小学生のようにはしゃいだ。

今はやっている戦闘ロボに盛り上がり、

小学生の頃やっていたゲームを見つけては懐かしがったりした。

(うーーん、僕達って大人でも子供でも無いよな・・・

でも、世間から見れば子供・・・かな)浩はまた取り止めもなく考えた。

また椎野のことを思い出していた。

 

 

その九

僕と裕ちゃんは気が付くと商店街で二時間位は時間を潰していたのだろう。

デパートに行くが、ほとんどお目当ては屋上コーナーである。

中学の男子二人はそんなに買い物できる訳も無く、

雑貨屋さんコーナーには小中高の女子が群がっていたが、素通りした。

裕ちゃんがスポーツ用品のコーナーが見たいというので付き合った。

新しいシューズに裕ちゃんの目は釘付けになった。

「いいなーー。これ。ね?浩君。」裕ちゃんは目を輝かせた。

「ああ、かっこいいな。」

それは有名ブランドのスニーカーで値段は中学生の僕らには

信じられない位高かった。

その後、今度は僕が裕ちゃんに付き合って貰って、

本屋さんのコーナーを見に行った。

新刊の漫画本コーナーをチェックする。(いいの無いかなーー)

ふと、山崎も本屋を見にくるんじゃないだろうかと思い、

僕は急に周りが気になり、キョロキョロと辺りを見回した。

「浩君、どうかしたの?」

僕の様子に裕ちゃんが聞いてきた。

「あ、うん。友達来てるような気がして・・・

今日、デパートに寄るって言ってたんだ。」

裕ちゃんは「そう・・・」と言って、

「一緒に行かない?って誘わなかったの?」と不思議な顔をした。

「あ、うん。だってそいつデートだし。」僕はさらっと言った。

「ああ、そっかーー。」裕ちゃんはなるほど~という顔をした。

山崎達の姿は無かった。本屋にはちらほらと学生の姿は見えたが・・・

僕は前から欲しかった新刊の漫画本を買うと裕ちゃんと屋上へと向かった。

ゲームコーナーには沢山の子供達があふれていた。

ゲーム機がちかちかしていて僕らの気をはやらせているようだ。

ふと奥から女子の集団が入り口のこちらに向かって歩いてきた。

僕はその顔を確認するとドキッとした。

(伊勢崎 勝代!)僕はさり気無く目立たない脇へとふらっと行こうとした。

そんな僕達を目ざとく見つけて伊勢崎勝代は大きな声で呼び止めた。

「あー!ひろっちの友達の井出じゃん!」見つかってしまった。

僕はこの女が苦手である。我が中学の女ボス。そして山崎のいとこである。

浩と山崎とこの勝代は同じ中学の同期である。

「よお。」と浩はなにくわぬ顔で挨拶するしか無い。

「そー言えば、あんたもひろっちだったよね。あいつ見なかった?」

勝代は浩の様子などまるで気にする様子も無く話しかけてきた。

今勝代に彼らはデートしていますなどと言ったら大変なことになるだろう。

「ああ、うん。今日は別行動。」浩は無難な返事をした。

「ふーーん、あんた達いつも一緒なのに珍しいじゃん。」と勝代。

勝代は「じゃ、うちら帰るとこだから。」と他の女子達を引き連れて行ってしまった。

浩はホッと胸を撫で下ろした。

勝代は名前の通り勝気な女子でバレー部に所属している。

椎野とは全く対照的な性格であろう。

椎野と浩は一年の時勝代と同じクラスで、浩はそれを目の当たりにしてきた。

何でも自分が中心でないと気がすまない女で、

浩は勝代と波風立たないようのらりくらりと交わしていたものだ。

(同じ班じゃなくて良かった)浩は勝代のことをそんな風に思っていた。

(そういえば、椎野ちゃん勝代と同じ班で大変そうだったっけ)

「ねえ、ひろっちって言ってたの、デートしてるって言った浩君の友達?」

裕ちゃんが聞いてきた。

「うん、そうだけど・・・でも、このこと内緒な。」

裕ちゃんに念を押しながらその顔を覗き込んだ。

「あ、うん。」裕ちゃんは何度も首を縦にふった。

 

 

その十

僕と裕ちゃんはデパートの屋上ではやりの対戦ゲームですっかり盛り上がり

帰る頃には陽が暮れていた。

僕達は慌てて家路を急いだ。

裕ちゃんと出かけることは母親に言ってあったが、

もう夕飯時である。

「じゃあね。浩君また明日!」裕ちゃんは手を振りながら駆けていった。

家に帰ると母親はご機嫌斜めだった。

父は残業で遅いようである。

「もう、待ちきれなくてご飯食べちゃったわよ。」ムッとした顔で浩に言う。

「ごめん、ごめん。裕ちゃんと久しぶりに商店街に行ったら懐かしくて・・・」

「懐かしい?まだそんな歳じゃないでしょう?」

しょっちゅう買出しで商店街に出かける母の憲子には理解して貰えないようである。

浩は久しぶりに裕ちゃんと遊んだことが嬉しくて

和やかな気持ちで箸が進んだ。

裕ちゃんは明日朝練が終わったら浩の家に遊びに行くと言っていた。

何だか楽しい夏休みになりそうでワクワクしていた。

あっという間に夕ご飯をたいらげると

浩は今日買ってきた漫画本を読む為に自分の部屋にこもった。

ひとしきりは平和だった。

浩は漫画を読み終えてしまうと、今日伊勢崎勝代に会ったことを思い出していた。

(何か、嫌な予感がする・・・

勝代は何故あんなに山崎のことを構うんだろう?

椎野は山崎と勝代のことを知っていいるんだろうか?)

そんな思いが頭の中でグルグル回りだした。

(僕がそんなこと考えたってしょうがないじゃないか・・・)

でも、椎野のことが心配になってしょうがなかった。

浩は一年の頃のことを思い出していた。

椎野は小学校まではこの地域に住んでいなかった。

父親の転勤で中学に入学する直前にこの土地にやってきたのだと

同じクラスの女子に聞いた。

椎野の家と浩の家は町内会こそ違えとても近くだった。

浩は中学に入って出会った新しい近所の友達・・・

そんな意味でも椎野のことが気になっていた。

それから中一の二学期椎野と勝代は同じ班になったのだった。

こんなことがあった・・・

勝代はいつも声が大きく、自分の意見を誇示するような態度を取るのだが、

「私、大人しい女って何考えてるか分からなくて駄目なのよね~~!」

勝代の周りに腰ぎんちゃくのように数人の女子が集まり話している中

勝代が聞こえよがしに吐いた言葉・・・

勝代のすぐ後ろの席の椎野はその時居場所を奪われたみたいに俯いていた。

こんなこともあった・・・

ホームルームの時間、勝代は自分の意見をどうどうと述べたのだが、

それに念を押すみたいに後ろの席の椎野に

「ねえ、石川さんもそう思うでしょ?」と勝代は同意を強要したのだった。

ふいをつかれた椎野は曖昧な作り笑顔で頷くしかなかった。

それを見た勝代は椎野に向かってふんと睨みつけ・・・

椎野は深く俯いてしまったのだ。

浩の脳裏に焼きついているその寂しそうな顔と

椎野の凍りついたみたいな作り笑顔・・・

それは浩にとって耐え難いことだった。

(ほんとの椎野ちゃんはこんなんじゃない!)

椎野のことを捻じ曲げてるみたいな伊勢崎勝代が本当に憎たらしかった。

浩は一しきり過去の追想を終えると、

(もう、椎野ちゃんが勝代に振り回されることは無い。

山崎だっているし・・・大丈夫!)

そんな風に強く心に念じ、浩はやっと落ち着いた気分になった。

 

 

 

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