僕と彼と彼女の間

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その十

僕と裕ちゃんはデパートの屋上ではやりの対戦ゲームですっかり盛り上がり

帰る頃には陽が暮れていた。

僕達は慌てて家路を急いだ。

裕ちゃんと出かけることは母親に言ってあったが、

もう夕飯時である。

「じゃあね。浩君また明日!」裕ちゃんは手を振りながら駆けていった。

家に帰ると母親はご機嫌斜めだった。

父は残業で遅いようである。

「もう、待ちきれなくてご飯食べちゃったわよ。」ムッとした顔で浩に言う。

「ごめん、ごめん。裕ちゃんと久しぶりに商店街に行ったら懐かしくて・・・」

「懐かしい?まだそんな歳じゃないでしょう?」

しょっちゅう買出しで商店街に出かける母の憲子には理解して貰えないようである。

浩は久しぶりに裕ちゃんと遊んだことが嬉しくて

和やかな気持ちで箸が進んだ。

裕ちゃんは明日朝練が終わったら浩の家に遊びに行くと言っていた。

何だか楽しい夏休みになりそうでワクワクしていた。

あっという間に夕ご飯をたいらげると

浩は今日買ってきた漫画本を読む為に自分の部屋にこもった。

ひとしきりは平和だった。

浩は漫画を読み終えてしまうと、今日伊勢崎勝代に会ったことを思い出していた。

(何か、嫌な予感がする・・・

勝代は何故あんなに山崎のことを構うんだろう?

椎野は山崎と勝代のことを知っていいるんだろうか?)

そんな思いが頭の中でグルグル回りだした。

(僕がそんなこと考えたってしょうがないじゃないか・・・)

でも、椎野のことが心配になってしょうがなかった。

浩は一年の頃のことを思い出していた。

椎野は小学校まではこの地域に住んでいなかった。

父親の転勤で中学に入学する直前にこの土地にやってきたのだと

同じクラスの女子に聞いた。

椎野の家と浩の家は町内会こそ違えとても近くだった。

浩は中学に入って出会った新しい近所の友達・・・

そんな意味でも椎野のことが気になっていた。

それから中一の二学期椎野と勝代は同じ班になったのだった。

こんなことがあった・・・

勝代はいつも声が大きく、自分の意見を誇示するような態度を取るのだが、

「私、大人しい女って何考えてるか分からなくて駄目なのよね~~!」

勝代の周りに腰ぎんちゃくのように数人の女子が集まり話している中

勝代が聞こえよがしに吐いた言葉・・・

勝代のすぐ後ろの席の椎野はその時居場所を奪われたみたいに俯いていた。

こんなこともあった・・・

ホームルームの時間、勝代は自分の意見をどうどうと述べたのだが、

それに念を押すみたいに後ろの席の椎野に

「ねえ、石川さんもそう思うでしょ?」と勝代は同意を強要したのだった。

ふいをつかれた椎野は曖昧な作り笑顔で頷くしかなかった。

それを見た勝代は椎野に向かってふんと睨みつけ・・・

椎野は深く俯いてしまったのだ。

浩の脳裏に焼きついているその寂しそうな顔と

椎野の凍りついたみたいな作り笑顔・・・

それは浩にとって耐え難いことだった。

(ほんとの椎野ちゃんはこんなんじゃない!)

椎野のことを捻じ曲げてるみたいな伊勢崎勝代が本当に憎たらしかった。

浩は一しきり過去の追想を終えると、

(もう、椎野ちゃんが勝代に振り回されることは無い。

山崎だっているし・・・大丈夫!)

そんな風に強く心に念じ、浩はやっと落ち着いた気分になった。

 

 

 

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