CRASH FAMILY

 翌朝7時、小雪と正太郎はリビングにいた。

昨夜の一件を知らない二人は、親がいないことに躊躇していた、そこへ電話が鳴った。

「あっ正太郎?お父さんがね・・倒れちゃって・・今病院なの・・・小雪いる?」

「えっ・・チョッと待って・・・・お姉ちゃん代ってって」

「何・・・」

「小雪?お父さんが・・・くも膜下出血で意識不明なの・・・リビングのテーブルの上に私のバックが

るからそれを持ってきて欲しいの・・・

「無理・・・」

「えっ・・何言ってんの・・・お父さん倒れたのよ・・・」

「だから無理・・・」

「じゃあ正太郎に頼んで・・・お願い・・」

正太郎も首を横に振った。

「もういいわ・・・なんて子なの・・もう・・・」

電話が切れ、小雪は私服で出て行った、正太郎も学校へ出掛けて行った。

 

 小雪は何の感情も無かった、ただクスリが欲しかった、駅前でヒロシに電話した。

「あっワタシ・・・お金作るから・・・クスリ頂戴・・・」

「ああ、いいよ・・・15時に新宿アルタ前で・・・」

小雪は取りあえず新宿に向かった。

歌舞伎町に着いたは10時を過ぎた所だった、街灯の柱にテレクラの貼り紙を見つけたのは、援

交相手を物色している時である、さっそく電話をしてみる、案の定相手は食いついてきた。

女子高生だと知るやすぐ誘ってきた、待ち合わせ場所を決め男を待っていると、30代のショボく

れたオタク系の奴だった。

(何処がイケメンよ・・キモイ・・・まあいっか・・・お金のため・・・)

二人はあの鄙びたモーテルに向かった。

「ねえ、先にお金頂戴・・・」

「わ、わかった・・いくら?」

「三万円・・・

「ホントに高校生なんだ・・・へへへ・・はい三万円」

「シャワーお先にどうぞ・・」

 あっけないセックスに物足りなさを感じながらも、小雪はこんなことで3万も稼いだことに驚いて

いる、月の小遣いが5千円である、これでクスリが買えてヒロシに抱かれる、上機嫌でアルタ前に

向かった、14時30分まだ約束の時間は早い、ケイタイを弄って待っていると、数人の男から声

を掛けられる。

(これならもっと稼げるかも・・・簡単だわ・・・)

そこへヒロシが現れた。

「よう・・小雪・・・ちょっと痩せたんじゃねえか?やり過ぎるとヤバイぜ・・・」

「うん・・大丈夫・・・」

「俺チョッと用があるから・・・金持ってきたか?」

「うん・・はい」

小雪は2万を差し出した。

「ばか・・足りねえよ・・・ポンプ・・いや注射器もあるから3万だ」

「えっ・・・そんなあ・・・わかった・・・はい」

「やり方・・わかるよな?」

「うん・・・」

「じゃあな・・・」

ヒロシは足早に去っていった。 

 

 正太郎は今日も部活を休んだ、繁華街にあるミリタリィーショップへ行きたかった。

ショップの陳列棚にはサバイバルナイフが飾ってあった、鋭利な刃物を羨望の眼差しで見ていた

太郎に店員が問いかける。

「欲しいのか?カッコいいだろう」

「うん・・・中学生でも買えるの?」

「ダメだよ・・親の承諾が要るんだ・・」

「これカッコいい・・いくらですか?」

「ああ、バタフライか・・1万3千円だ・・」

「お願い・・・後で親に来てもらうから・・・売って下さい・・・」

「法律で決まってるんだ・・・俺が捕まっちまう・・・オーナーいねえし・・・いいか・・・内緒だぞ・・・」

「アリガトウ・・・」

「オマエ・・ヘンな事に使うなよ・・・約束できるか?」

「はい・・・約束します・・・」

 家に戻ると早苗が待っていた。

「あんた達、一体どういうつもり・・お父さん・・倒れて意識が無いのよ・・平気なの?」

「・・・・」

「小雪は?」

「知らない・・・」

正太郎はそう言いながら自室へ向かった、箱を開けると真新しく不気味に光るバタフライナイフ

が姿を現した、それは美しく妖艶だった、正太郎はそれを掴みカシャカシャと振ってみた。

(これは凄いな・・・カッコいい・・神のアイテムだ・・・・)

 程無くして小雪が帰宅した。

「ねえ・・お父さん意識が無いの・・・心配じゃないの?」

「・・・・」

「そう・・・わかったわ・・好きにしなさい・・・ここにお金置いておくから・・・私は病院へ暫く泊り込む

からヨロシクね」

早苗は情けなさと怒りで涙を流しながら病院へ向かった。

 小雪は一人リビングのソファーに座り、注射器と薬の入ったビニールをテーブルに置いた。

(確か注射器にクスリを入れて・・・水を吸い上げて・・・よく振って溶かして・・・)

小雪は記憶を頼りに溶剤を作った、袖を巻くりあげ血管を探ったが分からない、そこで髪留めを

使って止血帯の代わりに腕に巻いた、すると上手く血管が浮き出てきた、その静脈に針を刺し、

っくりと溶剤を注入していった。

「あああぁ・・・これだわ・・・最高・・・気持ちいぃ・・」

小雪は涎を垂らしながら酔っていた。

そこへ二階から正太郎が降りてきた、あまりの光景に唖然とし、小雪の元へ歩み寄った。

「お姉ちゃん・・何やってんだよ・・・おい・・・」

小雪はヒロシと勘違いし、正太郎の股間を弄った、自ら服を脱ぎ全裸になる。

「止めろよ姉ちゃん!よせよ・・・それ何だよ・・・まさか・・・麻薬か?」

小雪の意識は別世界へ飛んでいた、正太郎の服を脱がし全裸に剥いた、ゆっくりと正太郎の股

間に顔を埋め、それを口に含む。

なすがままの正太郎は一滴の涙を流し小雪を貫いた、激しい喘ぎと共に小雪は絶頂を迎えた。

失神状態の小雪は全裸のままソファーに横たわっている、正太郎は脱ぎ捨てたズボンのポケット

からバタフライナイフを出しセットした。

(コイツも悪魔になってしまった・・・やらなければ・・・悪魔を殺らなければ・・・)

正太郎は小雪の頚動脈にナイフを宛がい強くそれを引いた、すると物凄い量の鮮血が噴出し、

辺り一面血の海になっていく、小雪は一瞬ビクっと反応したが、やがて事切れて眠りについた。

 

 返り血を浴び、鮮血が目に入り漸く我に返った正太郎は、不気味に笑っていた。

(神の勝利だ・・・これでいい・・・悪魔は殺した・・・次は誰だ・・・何処の悪魔だ・・・・)

正太郎は浴室でシャワーを浴び、全身をくまなく洗った。

(汚い悪魔の血を洗い流す・・・・汚い・・・薄汚い・・・・)

 着替えた正太郎はナイフを持って家を出た、繁華街のゲーセンに立ち寄る。

(いるいる悪魔だらけだ・・・一杯いるぞ・・・・成敗しなくちゃ・・・神のお出ましだ・・・)

完全に常軌を逸した少年は、神の降臨を理由付け己の行動を正当化している。

心が病んだ少年は、ゲームに興じている人々を次から次へ、頚動脈を切りつけていった。

辺りは酷い惨状と化し阿鼻叫喚の地獄絵図である、阿修羅の如く犯行を続け店外へ走り去る。

犠牲者は十数人に上った、少年は最後の悪魔を退治しようと病院へ向かっていた。

全身血だらけの正太郎は走り続けるが、数台のパトカーから次々と警官が降りてきて正太郎に

立ち塞がる。

息を切らした正太郎が叫ぶ。

「この悪魔供が・・・はあ・・はあ・・・・みんな殺してやる・・・・俺は神だぞ・・・」

警官にナイフを振りかざし、大声を出しながら暴れる、やがて取り押さえられた正太郎は、涙を流

していた。

「なんで邪魔するんだ・・・・放せ悪魔め・・・・畜生・・・・」

 

 正二の様態が急変したのは早苗が病院に着いたその時であった。

懸命な医師の治療も虚しく終わった、早苗は放心状態になり病室の外へ出て、そのまま階段を

上り屋上へ辿り着いた、最愛の夫を亡くし子供達にもつれなくされ、最早生きる術が見当たらな

かった、限りなく流れる涙で目の前が霞んでいく、無意識に屋上の鉄柵を越えた早苗は目を閉じ

ながら宙を飛んでいった。

この常軌を逸した家族は崩壊した。

 

エンジェル
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