CRASH FAMILY

 電車で隣町の県立高校に通う小雪は、満員の車中で先週の出来事を思い出し頬を赤く染めて

た、それは友人等と先週の土曜日、渋谷へ遊びに行った時の事である、センター街のとある

店の前でマックシェイク片手に友人と盛り上がっていた、そこへ三人組の若い男達が話しかけて

きた。

「ねぇ・・カラオケでも行かね・・よぉ・・・行こうぜ」

小雪の友達はノル気だ、話が弾み楽しそうにケラケラと笑っている、小雪は躊躇ったが流れで行

嵌めになった。

 ボックスでは男達が執拗に酒を勧める、未成年の小雪達は無論一口も飲んだことは無い。

受験勉強の憂さが溜り、一口位いいかとばかり強い洋酒を煽ってしまった。

身体中が熱くなり顔が火照る、ふと気が付くと知らずにペアになり、小雪も一人の男に肩を抱か

ていた。

異性に興味が無いわけじゃない・・性にも興味はある・・・初恋は小6だった。

小雪の肩を抱く男は、小雪の唇に唇を重ねた、初キスであった。

ビックリして心臓が飛び出そうなくらい鼓動した、小雪は一人友達を残し店を後にした。

渋谷駅の改札を抜け電車に飛び乗る、身体は火照ったままだ、指で唇の感触を確かめる。

(結構イケメンだったような・・・・メアドの交換はしたけど・・・連絡あるかな?)

 

 小雪は授業中にも拘らずあの日の事を考えボーっとしていると数学の教師に怒鳴られた。

昼休み、友達とあの日のことを話していた、比較的中でもませている綾は、あの後ホテルにシケ

こんだらしい、小雪には到底理解できない・・・。

帰り道メールの受信音が鳴った。

(小雪ちゃん、憶えてる?良かったら今度メシでもどうですか?ヒロシ)

小雪は嬉しいような、怖いような不思議な感覚だった、次第に身体が火照ってくる。

ヒロシに返信メールを送る。

(もちろん・・憶えてるよ・・ウレシイ・・いつですか?)

すると直に返信してきた、今週の土曜日に渋谷の109前に18時、親には友達の家で勉強する

とでも言っておけばいいか、小雪は胸が高鳴り週末が待ちきれないほど嬉しかった。

 

 

 寒風が吹き荒れる中の練習はキツイ、正太郎は野球部監督に叱責を受け、罰として校庭20

周を一人で走っていた、何で俺だけこんな目に遭うんだよ、だりぃな。

一年の小林が悪いんだ・・・あの野郎・・・。

 正太郎の所属する野球部は、地区大会に度々上位に入る名門である、先輩には有名高校か

のスカウトもあり正太郎もやる気満々であった。

一年の頃から情熱を注ぎ、人一倍練習をしてきた、しかし実力の差は開き二年になってもレギュ

ーにはなれなかった、段々と意欲は削がれ練習にも身が入らなくなっていた。

そんな正太郎を監督は見抜き、一年生と球拾いをさせたのだ。

その一年生の中に小林という割と野球のセンスのある奴で、普段から先輩である正太郎を影で

笑っていると、同級生から聞いていた。

(全部アイツが悪いんだ・・・ムカつく・・・いつか見てろよ・・・)

正太郎はかなりの憎悪を抱きながら、校庭を走っていた。

  翌朝、朝練があると嘘を付き30分早く家を出た、幸い校舎の鍵は開いている、急ぎトイレへ向

かい用意しておいたビニール袋の中に脱糞した。

まだ誰もいない一年の小林の教室に向かい、教卓に貼ってある座席表で席を確認し、徐に奴の

机の中にそれをぶちまけた、辺りに匂いが充満し正太郎は急ぎ自分の教室に戻っていった。

時間が経つにつれ学校中が大騒ぎになっていく、正太郎は内心ほくそ笑む。

 次の日は小林の自宅を探り出し、夜中こっそりと家を出た正太郎は、昼間購入した赤のペイン

トスプレーで小林の自宅玄関や外壁に、うじ虫馬鹿ウンコ野郎などと書いて走り去った。

正太郎の行動はエスカレートし、自分では制御不能に陥っていった。

小林は精神的におかしくなり、不登校になりつつある。

 渋谷スクランブル交差点、行き交う人々の吐く息が白い、辺りはネオンが煌めき不夜城と化す

の始まりである。

109の前には人待ち顔の若者が、各々携帯を弄りながら時折辺りを見廻す。

小雪がそこに着いたのは18時をすこし過ぎてた、ヒロシを探すが人が多すぎて分からない。

すると小雪の携帯にメールが届いた。

(小雪ちゃん・・着いた?ゴメン、この前のカラオケボックス憶えてる?そこに来てくれる・・。)

(うん、了解!)

小雪はメールを返信し、カラオケボックスへ急いだ。

割とイケメンだったこと、優しそうだし、初めてカレシができそうだと、ワクワクしながら走った。

 10分後カラオケボックスに着くと、この前とは雰囲気が全然違うヒロシが立っていた、それは不

っぽく異様な感じだった。

「よう、小雪ちゃん、ゴメンね来てもらって」

笑顔を見せたヒロシに小雪は少し安堵した。

「ううん、平気」

「今日はさ・・・ここじゃなくて、行きつけの店があるんだぁ・・美味いもの一杯あるよ、そこ行こう」

ヒロシは半ば強引に小雪の手を握り歩き出した。

異性と手を繋いだのは中学の時のフォークダンス以来で、小雪はドキドキしたが嬉しかった。

ヒロシは道玄坂の路地裏を抜け、人通りの少ない道を進む。

「ねえ、何処行くの?」

「もう少しだよ・・・隠れ家みたいなとこだから・・・」

 人気の無い道の先にぼんやりと看板の灯りが見える、ボンドと書いてあった。

「ここだよ・・・さあ入って」

ドアを開けると、外の静けさとは打って変わり、激しいビートの音楽が響き渡り、照明は至極暗い

、ヘビーピアスを付けた連中が入り混じり、小雪は萎縮してしまう。

「こっち来て・・・」

ヒロシは店の奥にあるドアを開け小雪を招きいれた、そこはボックスシートが小分けされ、暗がり

の中で異様な男女が十数名いて、何やら様子がおかしい。

「ねえ、ワタシやっぱり帰る・・・」

「何言ってんの・・・来たばっかじゃん・・これから楽しくなるからさ・・・さあ、ここに座って」

 

 

 仕事が休みの正二は朝からゴルフに興じていた、本店の上司の誘いを断ることはできない。

毎晩の行為で疲れはピークに達している、そのせいだろうかプレイ中腰の筋を捻ってしまい、歩

困難で救急車で病院に搬送されてしまう。

幸い軽いぎっくり腰で、二時間後には帰宅を許され自宅へ戻った。

早苗は帰った正二の様相に驚愕し、落胆の溜息をついたのだ、その溜息の理由は言うまでも無

った、必然と機嫌が悪くなった早苗は口数が減っていった。

 早苗の話だと、小雪は友人の家で勉強するから遅くなるか、外泊するらしく、正太郎は早苗の

家で群馬県の祖父の家に遊びに行ったらしい、久し振りの二人だけの夜なのにと早苗の落胆

振りには恐れ入る。

 

 渋谷のとあるバーボンドでは不安と恐怖が入り混じり小刻みに震えている小雪が、ヒロシに帰

りたいと懇願していた。

「大丈夫だよ・・・これから楽しくなるって」

ヒロシはボーイを呼び、聞いたことの無いドリングをオーダーした、そしてジャケットの内ポケット

から何かを取り出した、暗くて何なのか理解できない小雪は震えが止まらない。

周りの男女は何故か常人には感じられない、ぶっ飛んでいるというか、ハイになっているような、

眼がおかしい。

やがてボーイがドリンクを二つ運んできた。

「何これ?コーラ?」

「ブラックウォッカだよ・・・これは少し強い酒だから、この粉砂糖を入れて飲むんだ、俺も酒強くな

いから・・・甘くなって美味しいよ」

ヒロシは内ポケットから取り出した白い粉末を、二つのグラスに入れ、マドラーで掻き回した。

「さあ、美味しいから飲んで」

小雪はおそるおそるグラスに口を付けた、ヒロシも続けて煽った、小雪は喉が焼けそうで、思わ

ず咳き込んでしまった、胸の辺りがカーっと熱くなり、その後心臓の鼓動が激しく高鳴る、頭がボ

ーっとしてくる、目の前が白み始める。

「あぁ、何だかおかしい・・・何これ・・・やだ・・変だよ・・・・」

「効いてきたな、俺もばっちりキマッってきたぜ・・・気持ちいいだろ?」

「何だか身体がフワフワしてきた・・・・あぁ・・・」

 

 

エンジェル
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