CRASH FAMILY

 仕事が休みの正二は朝からゴルフに興じていた、本店の上司の誘いを断ることはできない。

毎晩の行為で疲れはピークに達している、そのせいだろうかプレイ中腰の筋を捻ってしまい、歩

困難で救急車で病院に搬送されてしまう。

幸い軽いぎっくり腰で、二時間後には帰宅を許され自宅へ戻った。

早苗は帰った正二の様相に驚愕し、落胆の溜息をついたのだ、その溜息の理由は言うまでも無

った、必然と機嫌が悪くなった早苗は口数が減っていった。

 早苗の話だと、小雪は友人の家で勉強するから遅くなるか、外泊するらしく、正太郎は早苗の

家で群馬県の祖父の家に遊びに行ったらしい、久し振りの二人だけの夜なのにと早苗の落胆

振りには恐れ入る。

 

 渋谷のとあるバーボンドでは不安と恐怖が入り混じり小刻みに震えている小雪が、ヒロシに帰

りたいと懇願していた。

「大丈夫だよ・・・これから楽しくなるって」

ヒロシはボーイを呼び、聞いたことの無いドリングをオーダーした、そしてジャケットの内ポケット

から何かを取り出した、暗くて何なのか理解できない小雪は震えが止まらない。

周りの男女は何故か常人には感じられない、ぶっ飛んでいるというか、ハイになっているような、

眼がおかしい。

やがてボーイがドリンクを二つ運んできた。

「何これ?コーラ?」

「ブラックウォッカだよ・・・これは少し強い酒だから、この粉砂糖を入れて飲むんだ、俺も酒強くな

いから・・・甘くなって美味しいよ」

ヒロシは内ポケットから取り出した白い粉末を、二つのグラスに入れ、マドラーで掻き回した。

「さあ、美味しいから飲んで」

小雪はおそるおそるグラスに口を付けた、ヒロシも続けて煽った、小雪は喉が焼けそうで、思わ

ず咳き込んでしまった、胸の辺りがカーっと熱くなり、その後心臓の鼓動が激しく高鳴る、頭がボ

ーっとしてくる、目の前が白み始める。

「あぁ、何だかおかしい・・・何これ・・・やだ・・変だよ・・・・」

「効いてきたな、俺もばっちりキマッってきたぜ・・・気持ちいいだろ?」

「何だか身体がフワフワしてきた・・・・あぁ・・・」

 

 

 渋谷の道玄坂ラブホテルの一室、どうやってここに来たのか解らない、小雪は気が付くと大き

円形のベットに横になっていた、気分は高揚しているし、目の焦点が合わないような。

「大丈夫・・・これ二日酔いに効くから・・・ちょっと痛いけど我慢して・・・」

ヒロシは小雪の袖を捲くり上げ、何やら注射しようとしている。

「何するの?ヤメテ・・えっ・・・チョッとヤメテよ

抵抗を試みるが力が入らない、ヒロシは小雪の静脈に何かを注射した。

「あああぁ・・・ヤメ・・・あああぁ・・・何これ・・・身体が・・おかしい・・」

「どう?気持ちイイだろ・・シャブっていうヤツだ・・」

意識と裏腹に身体が熱くなり高揚してくる、ヒロシは小雪の衣服を全て剥ぎ取り全裸に剥いた。

恥かしさよりこの高ぶりを何とかして欲しいと小雪は懇願した、未だ処女である小雪は何の躊躇

も無くヒロシに抱いて欲しいと身体は感じていた、打たれたクスリのせいなのか、私には淫らな

が流れているのだろうか、どうでもいいから早く抱いて欲しいと小雪は思った。

 小雪は朝まで色々な性技を教え込まれ、それを貪欲に味わい、のめり込んでいった。

「そろそろ帰ろうぜ・・・また遭いたくなったら電話しな・・・」

ヒロシはそう言いながら身支度を整え部屋を一人で出て行った。

クスリが切れた小雪は我に返り現実に戻った、とんでもないことをしてしまった、どうしよう。

物凄く喉が渇き、冷蔵庫のミネラルウォーターを一気に煽った、ふと横を見ると鏡に全裸の自分

の姿が映っている、後悔と自責の念で涙が溢れてくる、ブルブルと震える身体は寒さで冷たかっ

た。

 

 群馬県渋川市、伊香保温泉に程近いところに早苗の実家がある、辺りは一面に雪景色が拡が

っている、坂の多いこの街は湯治客や観光客で賑わう。

東京から来た観光客はこの坂道を侮り、車はノーマルタイヤで走る、そしてこの坂道で立ち往生

となるのは、この地の風物詩であるらしい。

 正太郎は、老夫婦で果樹園を営む早苗の実家に遊びに来ていた、小さいときから祖母が好き

で度々訪れる。

 下級生を苛め倒し、未だ物足りなさを感じている正太郎は心を病んでいた。

後悔なんかしてたまるか、アイツが悪いんだ、そう自分に言い聞かせ自分のしたことを正当化し

いる、祖母と会話をしていてもどこか苛々している自分がいる。

何かを破壊したい衝動に駆られ、正太郎は伊香保の街に一人で向かった。

 冬の伊香保は湯煙が一層浮かび上がり幻想的な雰囲気を漂わす、正太郎は石段街を昇りな

ら浴衣に丹前を羽織り歩く人々を横目に苛立つ気持ちを抑えていた。

すると、上から子連れの親子が階段をゆっくり降りてきた、子供は未だ就学前の5歳くらいだろう

か、親は二人とも温泉饅頭屋の試食に没頭している、子供が一人で階段の雪で戯れていた、正

郎は辺りを見廻し、人目が無い事を確認し子供の背中を力任せに押したのだ、正太郎は急ぎ

階段を駆け登り身を隠した、悲鳴も上げる事もできないその子供は勢い良く階下へ転げ落ち、頭

から血を流しピクリとも動かなくなった、気付いた両親は驚愕し子供の名前を叫びながら階段を

駆け下りた、辺りは騒然とし泣き叫ぶ母親の声が響いていた。

正太郎は平然と野次馬の中を抜け、祖母の家に向かった。

(親が悪いんだ・・・あんな小さな子をほっといて・・・饅頭なんか食ってるからだ・・・自業自得だ)

正太郎の背後で救急車のサイレンが鳴っている。

 

 埼玉郊外の家では、夫婦二人で会話の無い夕食を摂っていた、腰の痛みがぶり返した正二は

、早めに休む事を早苗に告げ、足早に床に就いた。

深夜12時を過ぎた頃寝室のドアが開いた、正二は瞼を閉じ寝たふりを決め込んだ。

風呂上りの早苗は、バスタオル一枚を身に纏いベットに座った、すると箪笥の引き出しからいつ

ものロープを取り出し、バスタオルを剥ぎ取り全裸になった、何を思ったか自らロープを縛り付け

ているではないか、それも喘ぎ声を上げながら恍惚の表情を浮かべている、何処から手に入れ

たのか性玩具であろうバイブレーターのような物を股間に当てながら善がっている。

正太郎は呆れ果て、狸寝入りを続行する事にした。

 

 

 渋谷道玄坂のラブホテルを後にした小雪は、駅に向かったが終電が発車したばかりであった。

途方に暮れる少女に闇夜の魔の手は次々と舞い降りてくる、執拗に迫る男達を振り払い駅前の

番に駆け込んだ、交番の灯りは眩しく、後ろめたさと罪悪感で涙が零れそうになった。

だが未成年である事がバレると面倒臭い事になる、そう判断した小雪は、近くにビジネスホテル

ないかと警官に尋ねた、その警官は丁寧にホテルの場所を説明してくれた。

駅前のビジネスホテルになんとか宿泊する事ができた小雪は、シャワーを浴びながら号泣してい

、腕の注射痕や身体中のキスマークの痕を石鹸で何度も擦り赤く晴れ上がった肌が痛々し

い。

良心の呵責を感じながらも、身体は何かを欲している、この真逆なものはシャブというクスリの作

なのだろうか、意に反して携帯へと手が伸びる。

(小雪です・・電車無くなっちゃったから、ビジネスホテルに泊まってるの・・メールして下さい)

何であんな目に遭ってるのにメールなんかしてるんだろう、小雪は崩れていく自分が怖くなった。

 ヒロシの返事は早かった。

(帰らなかったのか?クスリが欲しくなったらいつでも連絡してくれ、今日は忙しいんだ、また今度

可愛がってやるよ)

小雪は朝まで眠る事はできなかった。

 

 雪景色の伊香保の朝は朝陽が反射し至極眩しい、TVのワイドショウが昨夜の事件を報道して

いた、他人事のような顔をしながら正太郎は朝食の塩鮭を頬張っている。

ワイドショウの司会者はこの悲惨な出来事に、薄っすらと涙を浮かべている。

楽しい筈の家族旅行でこんな悲劇が起きるなんて、司法当局も事故を視野に検証しているらし

い。

「こんな近くでなぁ・・・」

祖母は哀しい顔を浮かべながらぼそっと言った。

「そうだね」

正太郎は平然と相槌を打った、幼い命を奪ったことなどどうでも良かった、むしろ苛立ちは増幅し

ていくような、正太郎の中で大きな何かが破裂しそうな、そんな予感を感じていた。

「お婆ちゃん、明日学校だから昼頃帰るね・・」

「そうかい・・淋しいのぉ・・」

祖母の皺くちゃな顔を見て正太郎は、肩を揉んでやることにした。

「悪いね・・アリガトウ・・いい子だね、正太郎は・・・」 

 

 

 

エンジェル
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