貧乏な人にならないための基礎知識 ~社畜人生を振り返って~

 

   何故かというと、現在の生活支出水準を収入に応じて調整できない、維持費を維持する

   ための基準を落とせない生き方が染み付いてしまっているからなんです。

   数年前に、音楽プロデューサーの小室哲哉氏が、詐欺をはたらいて有罪になった事件が

   あったのは有名な話ですが、

   彼はその才能を十分に発揮する場を得て、バブル経済崩壊期に個人としては莫大な印税

   収入を得て、その桁外れた才能をもって一躍財を築くことができました。

   しかし、栄枯盛衰の激しい音楽業界で、その後それだけのブランディングを確立しておき

   ながら、なぜ人を騙してまで財を奪うといった犯罪まで起こすようになってしまったのか?

   

   その原因は、1000万プレイヤー管理職と心理的に同じような経済観を持っているからです。

   確かに、並外れた才能や優れた知恵を持つ人で、その才覚を発揮する場が与えられ、見事

   に活躍する機会も与えられて評価され褒賞された経験を持つ人ほど、その才能によって得た

   富と名誉こそが「人生の基準」となってしまうからに他なりません。

   

   これは、一代発起して起業に成功し富を得た、成金経営者などにもよく見られる現象です。

   また、宝くじに当って一攫千金(億金?)を一夜にして得ることができた一般人にも同じ事が

   言えるらしいですね。

   

   その才能や強運によって、「技術や時の運で成功した」という人は、ほとんど例外なくその後

   の人生において、破綻したり多大な借金をつくってしまうといった歴史を繰り返しています。

   職人芸や強運によって得た一時的な富によって、一般の人よりはるかに向上した生活を送る

   事こそがステータスであり目標であるのは人として自然に持つ本能であり欲望なのですが、

   「その収入源も生涯不偏ものである」という条件がつかない限り、生活維持費をその最高の

   時期にどうしても合わせてしまう基準が成功した人間にはなかなかやめられないものです。

 

   さて…立場と時代と視点を変えて、冷静な目線で現在の日本と昔の日本を比べて現状を

   分析し、この問題をよく考えてみる事にします。

   さきほど話に触れた、年収1000~1500万のプチセレブサラリーマン世帯のお父さん家族が、

   どうしてそれほどの収入を持ちながら、家庭に貯蓄がほとんどなかったり、奥さんが借金した

   りなどの苦渋生活を送るっているのかが、これで何となく理解できてきたと思います。

   

   貯蓄がなくなっている、家族が借金をしている、という事で最も問題なのは、現在収入の

   そのほとんどを生活維持費=消費にあてているから、という現実に他なりません。

   つまり月給100万円なら生活維持費もほぼ100万円だという事です。

   そして、この「成功者」としての位置で最も厄介な問題なのが、「自分はこれで成功した」と

   いう過去の実績とプライドを実際に作り、それを認められ、組織の功労者・指導者としてその

   立場に立たされているという事なんです。 そうです、そこまでの年収がありながら、さらに

   「その過去の職の技術や才能のみによって、今より上の生活を将来も目指している」という

   自分が信じて成功してきたものを、今後もずっとこだわって同じレベル、同じ目線で維持させ

   ようとすること。

   

   これこそが、いったん加速したスピードとその道をもう変更できなくする原因だというわけです。

   しかし、奥さんが借金までしてしまう原因って一体何なんでしょうか?

   

   そうです、高給サラリーマンが最も恐れるイベント。不景気のボーナスカットというやつです。

   会社では頑張って売上げを立てて業績を上げれば、ボーナスに反映されるというのは世の

   まともな企業であれば昔から決まっているごく当然の常識なのですが、

   しかしそのエリートサラリーマンは、会社の業績ダウンによってボーナスがカットされた事を

   こう考えてしまうわけです。

   「おれの部所は売り上げを上げている、部下の指導もちゃんとしている、ボーナスが下がる

 

   のは、他の部所やヤル気のない無能社員が足を引っ張っているからだ」と。

   そうやって、他人のせい、市場のせい、組織の上層部のせいにして、自分が築いてきた

   栄光を取り戻し、もう一度業績を伸ばすために彼は部下を激励し、叱咤し、ありとあらゆる

   手段を用いて仲間や関係者を自分の過去に近づけようと、それはもう躍起になります。

 

   そこまで必死になって組織の業績を伸ばそうとするのは、何故なのでしょうか。

   もちろん決まってます。ボーナスをカットされて困ってしまうのは、その

   高額な維持費を維持しなければならない、組織的な責任者である自分自身に他ならない

   からなのです。

 

   だから、もっともとっと自分の組織の業績を上げなければ、「自分の生活水準がどんどん

   悪くなってしまい、せっかく苦労して築いてきた自分の生活が崩壊してしまう」からなのです。

   企業組織とは、そうやって業績を上げた社員に褒賞を与え、生活水準を向上させ、その考え

   方を多く部下に浸透させて、「自分もああなりたい」と希望を与えて全社員に頑張ってもらう

   ように組織作りをしている事がほとんどなのです。

   

   わかりますか?

   結局、核心部分になるその上司の本音は、これです。 

   「俺の維持のために皆頑張ってくれ、皆が頑張れば皆も生活はよくなり、俺も良くなる」

   いわば、管理職は経営者の右腕の立場であり、次に目指すは役員、経営者の仲間なのです。

   では次は、その経営者の立場で組織を考察しますと、経営者もまた同じなのです。

   現在の収益規模に対して大きくなりすぎた(多くの社員を抱えすぎた)自社の組織を、どうにか

   して元の屋台骨に戻すべく、必死に経営戦略を立てて会議して社員を奮い立たせます。

   そうしなければ、自分の「役員」という立場が危うくなり、ひいては自分の生活も危うくなって

   しまうからなんです。

 

   みんな、誰しも思い考えていたこと。

   「自分と自分の家族、自分の組織、自分の立場」を努力して上げれば、そこから転落しない

   ように今度はそれを維持し、さらに向上させるための努力をしなければならない。

   

   高度経済成長期にあった昭和中期から、バブル崩壊までの時代はそれが社会として最も

   適切で、最も求められて、最も目指すべき社員の姿でした。

   頑張ればそれだけで報われることが叶う機会が、万人に与えられていましたし事実その通り

   だったのです。

   

   我々バブル末期の黄金就職期時代のサラリーマン達は、誰しもが同じ事を考え、会社の

   ために一生懸命働くことで生涯を保証されていましたし、日本のルールでしたから、誰もが

   それに従い安心して勤めながら家庭を築いてきたというわけです。

   そして、中途半端にそこそこ高額給与所得を得て、得た所得で消費をするという考え方

   こそが当時の中流意識として世間には蔓延していました。

   そうです、皆で「消費・浪費」をすることで日本経済活動を円滑にしていたのもまた事実です。

 

   買うから作る、作るから買うという大量消費循環の中で我々世代は生活を送ってきました。

   だから、何十年も繰り返してきたこれまでの生活レベルを急激に落とすという考え方が、もう

   なかなか変えられないというわけなんです。 

   昔教わったとおり、昔から歩んできたとおりの人生が、なぜ最近になって急に苦しくなって

   きているのか?

   それを 「社会が悪い」 「政治が悪い」 「今の若いやつはダメだ」 など、自分の学んできた

   生活観・価値観と教育されて送ってきたこれまでの人生にあてはまらない、今の市場自体に

   その原因があるからではないか、と強く世間自体を否定してしまっている考え方なわけです。

黎明堂
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