短編集「ガラスの蝋燭」

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ガラスの蝋燭( 5 / 6 )

 そうなんだ。先程からこの部屋の雰囲気がいつもと違って見えたのは、ガラスが曇っている事だったんだ。
 他にもメッセージがないか、慌てて探してみる。
「キズイテ」のメッセージが至る所に残されていた。いつもなら磨き上げられたテーブルの上、テレビの画面、パソコンの画面、風呂場の鏡、戸棚のガラス。
 他に不自然なところはないか、と探してみると三十四個もの表面の滑らかなコップが台所に置いてあった。
 こんなに沢山のコップは普段は必要なくやはり不自然だと思い、これにも息を吐きかけて、曇らせてみる。やはり文字が浮かび上がってきた。
「おたんじようびおめでとうともゆきこれがろうそくがわりよすきよともゆき」
 手前から並べてゆくとこんな文字だった。

ガラスの蝋燭( 6 / 6 )

 僕は一安心して電話で連絡してみることにした。僕の自宅に。
「ぷるるるる、がちゃ。遅かったのね」
「何だよ。心配したじゃんか。こんな手の込んだ事して。このミステリーオタク!」と僕は少し心配料の腹いせをしてみた。
「去年よりは良かったでしょ?去年覚えている?」なんて馬鹿らしくてやってられないが、僕は真面目に応えた。
「ああ、去年は暗号文で書かれたラブレターだったな。解読に一ヶ月かかった。苦労したぞ」なんてこんなセリフを話すのはブラウン管の中の人物、若しくは推理小説家だけか、と思っていたのだが・・・とほほ。
「早く帰ってらっしゃい。お料理が冷めるわよ。ヒルダ、ご苦労様」と言って電話口で笑ってやがる。ヒルダがそわそわしてたのは、僕の自宅の周りに彼女が居たからみたいだ。
「か~っ、やってられないね」などと軽口を利いて僕は受話器を置いた。
 ま、こんな誕生日も悪くないか。
 なっ、ヒルダ。そして、愛する果歩。
                                    了
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星兎心
作家:星兎心
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