プロローグ( 5 / 7 )
なんて言って、手を繋ぎながらこの街を探索したんだっけ。それで見つけたのがこの少し冷房が強めのスーパーだったよな。
桜は今何しているのかって?
僕の子供の世話をしてくれているんだ、お腹の中のね。
あと一ヶ月で「我夢」と挨拶出来るんだ。
これが僕たちの子供の名前なんだけど、少し変わっているでしょ?ガムなんてね。
僕たちの夢、希望って意味なんだけどね。
そのスーパーで見つけたのはガムって訳じゃないんだけどね。
その時ふと思いついたアイデアが、アーモンドを口でキャッチボールするみたいに、相手に投げて口で受けて二人で楽しもうって思ったんだ。
「あっ!僕はこれが好きなんだよね。アーモンド。これも買っていいかな?」
「どうぞ、でも少し変わった好みね。ビールなんか飲んでいるんじゃないの」
その時桜はふと、何かに気付いたらしく、僕に更に楽しそうな顔を見せてくれて、込み合うレジにカートを押して行った。
そんな会話を交わしながら、十二個のグレープフルーツをかごに入れている桜を見ていた。
プロローグ( 6 / 7 )
そして十二個のグレープフルーツを一袋に詰め込み、もう一袋にアーモンドを入れて、
「これは君が持っていて」と言ってアーモンドの袋を差し出した。
「こっちは僕ね」と言って、グレープフルーツの袋を持ち上げた。それなりの重さだった。
彼女はそれなりに重そうな事を隠している、僕に気付いているみたいで、でも嬉しそうに話を続けた。
「アーモンドなんてホントは好きじゃないんでしょ?」
なんてそれも見抜いているらしく、桜は僕に悪戯を企んでいる子供のような顔を見せていた。
「だから十二個も買ったのよ」なんて言って更にカラカラ笑う。
「ごめん、アーモンドはそんなに好きじゃないよ。でも桜の嘘と相殺するのかなってね」
驚いた顔をした桜も可愛かった。
「そんなのいいのに・・・・・・」って少し涙を浮かべて考え込む桜もやはり可愛かった。
その時、この公園に辿り着いたんだ。夕日を背中に受けるひとつだけベンチのある公園に。
プロローグ( 7 / 7 )
「じゃ、ここで軽くしてくれないか?僕も食べるから」
「うん、嘘ついてごめん」
なんて言ってこの公園で酸味の強いグレープフルーツを二人で頬張ったんだっけ。
我夢にもここでアーモンドを投げてやろうかな?嘘ついた時に。
第1章 現在( 1 / 1 )
そんな思いを思い返しているうちに、桜と織り成した時間を記録した思い出のアルバムを開いてみたくなり、あの時の桜の様に足早に帰路についた。
その時はただあの頃を思い出したい一心で帰路についたので、自分がどんな行動を取っていたか、正直記憶に鮮明には残っていなかった。あのスーパーマーケットを出て、公園まで辿り着いたのは覚えているが、それから足早に家路につき、それから…
「ピーポーピーポー・・・・・・」
皮肉な笑顔に見える太陽に焼かれたアスファルトの熱が頬や四肢全てに伝わってくる。こんな焼けるような真夏のイメージの想い出も桜と描いたっけ・・・・・・