少女ふたり

時々灯に混ぜっ返されながらも2時間程勉強し、解散した。寮長の教え方は分かりやすく、なかなかはかどった。
風呂に入る前に明日の用意をしようとして、荷物に見慣れないノートが混ざっているのに気がついた。開いてみると丁寧な文字が並んでいる。参考にと寮長が見せてくれたノートを持ってきてしまったようだ。
寮 長は女子の区域に戻ったはずなので、直接渡しに行くことはできない。寮監さんに頼んで寮内放送で呼び出すことも考えたが、入寮日に寮長の電話番号を書いた プリントを貰ったことを思い出した。早速かけるとすぐに寮長が出た。名乗るとやっぱりかかってきた、と嬉しそうな声が返ってくる。
「何で分かったんだ?」
「ノートが1冊無くなっていたので」
ふふ、と含むように笑って言う。
「今から渡しに行っていいか?」
「はい、では玄関ロビーでいかがでしょう」
「分かった」
手短に電話を済ませ、ノートを手にロビーへ向かった。俺が着いてすぐに寮長もやって来た。
「悪かったな、ノート持ってきてしまって」
ロビーで立ったままノートを渡すと、寮長は受け取りながら上目遣いに俺を見て、いいえ、と首を振った。
「わざとなんです」
「わざと?」
「二人きりでお目にかかりたくて、わざとノートを紛れ込ませました」
え、と呆気に取られた俺の腕に、寮長はそっと手を添えて言った。
「せっかくですから、裏庭にご一緒しませんか」
俺はまだ状況を上手く咀嚼しきれないながらも寮長に連れられて裏庭に出た。寮長に導かれるままに空いているベンチに座らされる。周りは植え込みに囲われていて、歩いて来た道がわずかに隙間を作っている状態だ。
「寮長、こんなところで何をするんだ?」
いたたまれずに隣に座る寮長を見ると、予想外に強い視線が返ってきた。
「渚、です」
「は?」
「私の名前は寮長ではありません」
「でもみんな寮長って呼んでるじゃ……」
「灯ちゃんのことは呼び捨てにするのに私のことは寮長としか呼べないんですか?」
俺の言葉を遮って、一息に寮長は言った。
「じ、じゃあ……渚、って呼ぶよ」
気圧されながらも俺が頷くと、寮長……じゃない、渚はにっこりといつもの笑みを浮かべた。
「はい、お願いします」
何を考えているのかは分からないけれど、取りあえずは機嫌を直してくれたようだ。
その後、他愛ない話をして、俺たちは別れた。
翌日、朝から仁科がにやにやしているなと思っていたら、昼食の時にその理由が分かった。渚と灯と一緒に食堂で食べていたら、仁科がとっておきの宝物を見せびらかすように喋り出したのだ。
「灯ちゃん灯ちゃん、とっておきのニュースがあるんだよ」
「おぉっ、何だ!?」
「なんとっ!この2人が夜に裏庭でいちゃついていたんだ!」
俺は思わずカレーを吹き出しそうになった。渚もむせている。
「なっ、何で知ってるんだ」
「そりゃ~あんた、昨日彼女と裏庭から帰る途中でちらっと横を見たら、寮長と並んで座ってるとこを見ちゃったからでしょ」
うひひ、と笑って肘で小突いてくる。それに辟易していた時。
「駄目だっ!」
出し抜けに灯が立ち上がった。
「あ、灯ちゃん?」
驚く渚を見下ろして宣言する。
「私のもんに手ぇ出すな!渚でも許さん!」
「なっ……別に灯ちゃんのものではないでしょう?」
「わ・た・し・のなの!男子寮に忍び込んだ時に助けて貰ったこともあるんだぞ!」
「そ、それなら私も昨日助けて貰ったけど……」
状況についていけず目を白黒させる俺の前で舌戦が繰り広げられる。食堂で談笑していた生徒たちもなんだなんだと注目している。仁科は笑っていてアテにできない。
「ストップ!」
俺は立ち上がって渚と灯の間へ、二人の視線を断ち切るように手のひらを入れた。
「ちょっと落ち着けよ、頼むから」
「落ち着いてられるか!」
「そ……そうね、はっきりさせましょう」
なんだか矛先がこっちに向いてしまったようだ。
「お前はどっちが好きなんだよ!?」
「それとも他に好いている方がいらっしゃいますか?」
2人の問いかけにも俺は周りの視線にも耐えきれなくなり、食堂から逃げだした。
どうにも平和な学園生活は送れそうにない。





※この物語は、「ギャルゲーってこんなんかな」という想像を元に描かれたフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません。ギャルゲー好きな方申し訳ありません。
高谷実里
作家:高谷実里
少女ふたり
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