ありふれた殺人

「確かに、憎しみと思います。でも、どうして男関係が出てこないんでしょうか。どこかにきっと、佐伯正一以外の彼氏がいるはずですよ。そうでなければ殺人の動機がさっぱりわかりません。まさに、謎ですね」コロンダ君は亜理紗という女性に興味がわいてきた。

 

「亜理紗のことでもっと知りたいんですが、教えていただけませんか?」コロンダ君は手を合わせてお願いした。本部長はこの辺で話を打ち切ろうと思っていたが、酔いが回ってくると口が軽くなる悪い癖が出てしまった。「男の手がかりがまったくないわけだよ。だから、彼女が卒業した中学校に出向いて、バレー部の顧問の先生に話を伺ったよ。彼女はバレーボール部でセッターをやっていてね、県下でも数少ない名セッターでH高校に特待生で入学したんだ。

 

そのとき、特待生ではないが一緒にその高校に入学したのが親友であり、アタッカーだった篠田ゆりだ。余談だが、ゆりは、第七学区のトップ高校に合格できるほどの優秀な成績で、S高校の校長をしている父親はS高校への進学を何度も勧めたが、頑として聞き入れず、亜理紗についていったそうだよ。

 

まあ、二人は高校でバレーボールに青春をかけていたんだが、亜理紗が高校1年生のとき、看護師の母親と薬剤師の父親が離婚したんだよ。卒業後、篠田ゆりは美容師専門学校に進学したが、弟妹の学費のために亜理紗は進学せず就職をした。その後、ひそかに風俗業に転職した。篠田ゆりは博多駅近くにある美容院で働いている。

 

篠田ゆりの話によると、勝気な性格で、弟妹を大学まで進学させてやるには、風俗以外ないと言っていたそうだ。この話からすれば、お金のために風俗をやって、21歳年上の佐伯正一との結婚もいやいやながら承諾したと思われる。本命の彼氏がいたならば亜理紗もつらかったはずだよ。亜理紗は弟妹の学費ためにやりたくも無い風俗を鬼になって頑張り、涙を凍らせて彼氏に別れを告げ、愛の無い結婚も承諾したんだな。その結果、殺されたわけだ。それを思うと涙が出てくるよ。いったい、本命の彼氏はどこにいるんだ」話し終わると一口ブランディーを含み、喉をグウィっと鳴らして流し込んだ。

 

「弟妹の学費のために。亜理紗は男のようですね。いや、男以上ですよ。ところで、篠田ゆりさんはどんな方ですか?」男のような亜理紗と子供のころからの親友であるゆりに興味がわいてきた。「ゆりさんね。美容師をしているだけあって、おしゃれでセンスがいいね。ブロンズのロン毛で、面長で、鼻が高くて、マニキュアのデコが可愛かったよ。かつて、バレーボールのアタッカーだけあって背は僕より少し低いぐらいで、肩幅もあって、足も長くて、ピンクのスラックスが良く似合っていたよ。お嬢さん育ちみたいで少し神経質だったな。まあ、こんなところだ」本部長の口調は浪花節になっていた。「実際にお会いになったみたいなお話ですね」コロンダ君は酔った本部長の姿が可愛く思えて、皮肉を言ってみた。

「あ、すまん、酔うと妄想が働いて、つい、感情を込めてしまった。だが、調書を思い出しながらしゃべったのだから、間違いは無い。他に聞きたいことは?」なぜか、ゆりの話になると笑顔になった。「肝心の、お客の風貌はどんな感じですか?」コロンダ君は思い出したように言った。

 

「防犯カメラに写っていたお客は、背丈は175センチぐらいで、顔は浅黒く、面長で、金縁の眼鏡、体型は肩幅が広く、長い脚、頭はオールバックのショートヘア、服装はブルーのビジネススーツ、大手のエリート社員って感じだな。タカラジェンヌみたいにかっこよかったよ。もしかしたら、東京の人かもしれんな。あんな、かっこいい男は福岡にはおらんだろう。出張のたびに、亜理紗とデートしていたのかもしれんな。今頃は、海外に転勤しているかも知れんぞ。そうだとすれば、ますます、厄介なことになる」ホシの話になると目がギンギンになってきた。

 

「最後に一つ、亜理紗に生命保険がかけられていませんでしたか?」最近よくある保険金殺人ではないかとふと思った。「あ~、そ~、なんと、5000万円の生命保険に加入していたんだよ。受取人は当然、母親なんだが」本部長は納得いかない顔で首をかしげた。

 

「いろいろとお話くださって、ありがとうございました。この事件は福岡県警に任せましょう。僕は違った角度からこれを題材に小説を書いてみたいと思います。もうこんな時間ですか。明日は、糸島をエンジョイします。白糸の滝に行ってみたいですね。本部長、どうですか?」コロンダ君は糸島が気に入っていた。「いいとも、君も将来は糸島に住みんしゃい、ワハハ~」目を細くして博多弁をしゃべった。

 

 

お菊さんのひらめき

 

東京に帰ったコロンダ君は書斎でぼんやりと事件について考えていた。彼は事件を解決しようとしているのではなく、この奇妙な事件を題材にした小説の構想を練っていた。その時、コンコン、とノックがなると、家政婦のお菊さんが二人分のコーヒーとチーズケーキを運んで入ってきた。「お坊ちゃん、また、妄想ですか。冷えないうちにこちらへどうぞ」テーブルにコーヒーを置くとお菊は椅子に腰掛けコロンダ君を待った。

 

「ありがとう、頂くよ。おいしそうなチーズケーキだね」コロンダ君は大好物のチーズケーキを口の中で溶かすとニッコリした。「今度はどんな妄想ですか?お坊ちゃんは小説家にでもおなりになるんですか?邪な心を早くお捨てにならないと、出世が遅れますよ」お菊はコロンダ君の現実逃避をたしなめた。「そう、きついことを言わないでくれよ。ところでお菊さんに聞かせたい話があるんだ」コロンダ君は本部長から聞いた事件の話を簡単にポイントだけ話した。

春日信彦
作家:春日信彦
ありふれた殺人
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