ありふれた殺人

「あ、すまん、酔うと妄想が働いて、つい、感情を込めてしまった。だが、調書を思い出しながらしゃべったのだから、間違いは無い。他に聞きたいことは?」なぜか、ゆりの話になると笑顔になった。「肝心の、お客の風貌はどんな感じですか?」コロンダ君は思い出したように言った。

 

「防犯カメラに写っていたお客は、背丈は175センチぐらいで、顔は浅黒く、面長で、金縁の眼鏡、体型は肩幅が広く、長い脚、頭はオールバックのショートヘア、服装はブルーのビジネススーツ、大手のエリート社員って感じだな。タカラジェンヌみたいにかっこよかったよ。もしかしたら、東京の人かもしれんな。あんな、かっこいい男は福岡にはおらんだろう。出張のたびに、亜理紗とデートしていたのかもしれんな。今頃は、海外に転勤しているかも知れんぞ。そうだとすれば、ますます、厄介なことになる」ホシの話になると目がギンギンになってきた。

 

「最後に一つ、亜理紗に生命保険がかけられていませんでしたか?」最近よくある保険金殺人ではないかとふと思った。「あ~、そ~、なんと、5000万円の生命保険に加入していたんだよ。受取人は当然、母親なんだが」本部長は納得いかない顔で首をかしげた。

 

「いろいろとお話くださって、ありがとうございました。この事件は福岡県警に任せましょう。僕は違った角度からこれを題材に小説を書いてみたいと思います。もうこんな時間ですか。明日は、糸島をエンジョイします。白糸の滝に行ってみたいですね。本部長、どうですか?」コロンダ君は糸島が気に入っていた。「いいとも、君も将来は糸島に住みんしゃい、ワハハ~」目を細くして博多弁をしゃべった。

 

 

お菊さんのひらめき

 

東京に帰ったコロンダ君は書斎でぼんやりと事件について考えていた。彼は事件を解決しようとしているのではなく、この奇妙な事件を題材にした小説の構想を練っていた。その時、コンコン、とノックがなると、家政婦のお菊さんが二人分のコーヒーとチーズケーキを運んで入ってきた。「お坊ちゃん、また、妄想ですか。冷えないうちにこちらへどうぞ」テーブルにコーヒーを置くとお菊は椅子に腰掛けコロンダ君を待った。

 

「ありがとう、頂くよ。おいしそうなチーズケーキだね」コロンダ君は大好物のチーズケーキを口の中で溶かすとニッコリした。「今度はどんな妄想ですか?お坊ちゃんは小説家にでもおなりになるんですか?邪な心を早くお捨てにならないと、出世が遅れますよ」お菊はコロンダ君の現実逃避をたしなめた。「そう、きついことを言わないでくれよ。ところでお菊さんに聞かせたい話があるんだ」コロンダ君は本部長から聞いた事件の話を簡単にポイントだけ話した。

「へ~、奇妙な事件じゃないですか?相当、深い関係にある人の仕業ですよ。私も、彼氏が犯人だと思いますが、まったく男関係が浮かび上がらないとは奇妙ですね」お菊はコーヒーを一口流し込んだ。「そうだろ~、奇妙なんだ」コロンダ君もコーヒーを一口流し込んだ。「こんな妄想はどうですか。麻薬取引にかかわっていた亜理紗さんは、いつか自分が殺されると思っていた。そこで、母親を受取人にした生命保険に加入した。その不安は不運にもクリスマスに的中した」お菊の顔はドヤ顔になっていた。

 

「なるほど、麻薬取引か・・思いつかなかったな~、と言うことは殺し屋の仕業と言うことだな。だけど、殺し屋が亜理紗の弟のクレジットを持っていたというのは不自然じゃないか?」コロンダ君はクレジットのことが一番気になっていた。「うっかりしていましたわ。クレジットですよね。この謎が解ければ事件が見えてきますね。お坊ちゃん」お菊の大きな眼がさらに大きくなってきた。

 

「そうなんだ、クレジットを亜理紗から渡されたと言うことは、自由にお金を使っていいということだろ、こんな関係の人物って誰だろうか?携帯履歴もすべて調べたらしいが、それらしき人物は出てこなかったらしいからね」コロンダ君は残りのコーヒーを一気に飲み干した。「しかも、そのクレジットは亜理紗さんの右手の上に残されていたわけでしょう。はっきり言えることは、金目当ての殺人じゃないということね。それどころか、保険金5000万円が母親の手に転がり込んだんですからね」お菊は保険金を気にしている。

 

「言い方は悪いけど、亜理紗が死んで得をしたのは母親だ。だけど、母親は犯人じゃないだろ。偶然、母親に大金が転がり込んだに過ぎないと考えていいと思うな。いったい、なぜ、亜理紗さんは5000万円もの保険に加入しようと思ったんだろうね?」コロンダ君は新しい疑問を口にした。「そうだわ、加入経路を調べてみてはどうかしら?」いつものひらめきが飛び出した。

 

「お~、それはいい考えだよ、さすが、お菊さん。きっと、警察も調べていると思うけど僕も念のために話を聞いてみよう」早速、電話で聞いてみることにした。G生命博多支社に問い合わせたところ、彼女の保険は博多南支部の木島洋子の取り扱いと言うことがわかった。コロンダ君はその支部に電話し彼女から直に話を聞いた。

 

「お電話では失礼とは思いましたが、木山智子さんの加入手続きをなされたと言うことで、一つ、お伺いしたいのですが。加入はどういう経路でなされたのでしょうか?」コロンダ君は単刀直入に質問した。「はい、警察の方にもお話しましたが、篠田ゆりさんの紹介で加入していただきました。ゆりは私の親友で、ゆりにも加入してもらっています」明快な返答をした。

春日信彦
作家:春日信彦
ありふれた殺人
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