産婦人科医の悲劇

黙って見ては父に悪いと思いましたが、気持ちを抑えきれず見てしまいました。内容はいろんな出産の記録でした。父の仕事がいかに重要で大切な仕事であるかを改めてわかりました。しばらく読んだあと、このフロッピーも捨てようと思いざっと目を通しながら、最後のほうにロールさせていたそのとき、「奇形児」の言葉か眼に飛び込んできました。はっとして、手を止め時はすでに「未発表の奇形児」と題された文章を読んでいました。下記はその一部の抜粋です。

 

 「胎児は奇形児です。耳と鼻とがありません。唇は未発達で接合した状態です。さらに、左足の膝から下がありません。生まれてすぐに死亡する可能性があります。しかし、もし、すぐに閉じられた唇をメスで開くことができれば、産声を上げ呼吸ができるはずです。危険な奇形児ではありますが、私にお任せください。八神さん」

 

 「先生、奇形児を育てることはできません。私は原発推進の研究者です。奇形児の情報が漏れたなら、原発反対派の格好の反撃材料になってしまいます。できれば、死産と言うことで処分していただきたいのですが。お願いします」

 

「それはできません。唇を開けば呼吸できる可能性があるのです。生存する可能性が1パーセントでもあれば、命を救う義務が医者にはあるのです。奇形児でも立派な人間なのです。私も全力を尽くします。一緒に育てましょう。勇気を出してください、八神さん」

 

 「T大の御用学者にはできないのです。奇形児のために将来を失ってしまう。私にはできない。死産にしてください。いくら払えばいいのですか!先生」

 

 笙子はもうわかったでしょう。結局、横山先生が私の命を救ってくれたのです。八神教授、実の父は私を見殺しにしようとしたのです。実の父は、私に対し殺意を抱いたのです。だから、私も・・・

 

 私は20歳まで生きてこられたことに感謝しています。そして、私を理解してくれたただ一人の親友、笙子を決して忘れません。さようなら。

春日信彦
作家:春日信彦
産婦人科医の悲劇
0
  • 0円
  • ダウンロード

16 / 17

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント