シロは、私の衝動を止めずにいることも多々あった。ときどき止めに入るときは、決まって私が折れた。いつも抵抗はするのだが、シロの守りは完璧だった。ただ、引っかかりが、だんだんと大きくなっているように感じた。
「お前は俺を斬ることはできない。俺を斬りつけてしまえば、主は主でいなくなってしまうからな。主が主でなくなれば、お前もどうにかなってしまうだろう」とシロは言う。
「どうにかって?」と私が聞いても「俺にも分からない」と言った。
何度かお互いに、ここでのお互いの作業をして、シロが「これで百回目だ」と言った時のことだった。
シロに止められて普段なら薄れていく狂気が、薄れることなく、逆により膨れ上がったのだ。斬りつけようとした彩玉は、今までで、いちばん大きいもののように思えた。私は、シロへの攻撃をやめなかった。やめることができなかった。
シロのいつもの完璧な防御もどこかぎこちないように見え、私の力も、強まっているように思えた。
「そろそろ『主』について教えてはくれないか」と斬りつけながら、私はシロに言った。
剣と楯のぶつかり合う金属音がしばらく続いた後、「わかった」とシロは言った。
「俺とお前は主の中で生きている。主に生かされているというのは、そういうことだ。主の心の作用が、俺たちなのだ。クロ、お前は主の欲望そのものだ。そして、お前が斬る玉は、主の求めるものの塊なのだ。しかし、人間は、ただの動物ではない。人間には理性というものがある。俺は、理性なのだ」
シロからの話で、私はすべてを理解した。なぜだか、シロの言ったことを、すんなりと受け入れることができた。それは、この世界が主のものであって、私たち三人で一人をなしているからなのかもしれない。
ただ、シロへの攻撃は止められずにいた。シロは、必死になっていた。
「主の欲望が爆発しているのか」
私がそうつぶやくと、シロの盾にひびが入った。それは、理性の崩壊であった。
「俺を殺せばきっと主は生きることができなくなる」
シロは私を説得しようとしたのだろうが、私の答えはもう決まっていた。
「主は、人間である前に、動物なのだ。動物ならば、欲望のままに生きることしかできないのだ」
シロの盾が大きな音を立てて割れた。そして、シロの胸を剣で斬り裂いた。シロは最後に鬼のような形相を見せた。
そして、私は狂気のままに膨れ上がった玉を斬りつけた。
(了)