卑弥呼の首輪

 

「ダメ、全然ダメ」アンナは拓也の土産袋を手に取ると玄関に飛び込んでいった。三人がキッチンに着くと黒猫の話になったが、事件は警察に任せたほうがいいんじゃないかと拓也は冷たくあしらった。「拓也って、意外と冷たいのね」アンナはみやげ物を広げては笑顔をつくっていた。「これ誰に上げるの?アンナにもあるんでしょうね」アンナは土産物が気になってしょうがない。「みんなの分とドクターの土産もチャンと買ってあるよ。姫島はいいところだ。改めて島の良さに感じ入ったよ」拓也は父親から何かいいことを聞き出してきたようだった。

 

土曜日の朝、原田先生宅に挨拶に行くと、時々、黒猫がやってくるので餌をやっていると聞かされた。さやかは是非黒猫に会いたいと先生に言ったところ、昼ごろには餌を食べに来るだろうと言われ待つことにした。だが、黒猫は現れなかった。さやかは心残りであったが、日曜日の朝、出立することを先生に伝えて天神の街に向かった。

 

 さやかたちが糸島を出立して一週間後、直人からコロンダ君にメールが送られた。昨日、原田先生と話をしていると、餌を食べにひょっこり卑弥呼が現れました。卑弥呼、卑弥呼と呼ぶとやってきたので頭をなでて膝の上に乗せました。首輪を取っても怒らないだろうかとおそるおそる首輪を取りました。卑弥呼は気持ちよさそうでした。首輪の裏を見ると小さく折りたたまれた手紙がビニールに包まれてボンドで貼り付けてありました。約束なので的野さんにはメールしますが、できれば、警察にメールのことは黙っていてくれないでしょうか。お願いします。以下、書いてあった内容をそのまま書きます。

~ 直人君へ!~

 

卑弥呼の首輪は直人君しか取ることはできません。だから、安心して話せます。心配かけてすみません。きっと大騒ぎになって、警察も必死に捜索したでしょう。本当にごめんなさい。お父さんはいい人です。神に仕える素晴らしい人です。でも、父はある罪を犯しました。それを私は知ってしまいました。このことを警察に言わなければ私も共犯と言うことになります。

 

望東尼のように強い女性になりたいと思っていましたが、私には無理でした。考えた結果、この世から消えることにしました。許してください。直人君と別れるのはとても悲しいです。直人君との思い出が一番の宝物です。どこにいても、直人君のことは決して忘れません。今度生まれ変われたら、結婚してください。大好きな直人君、さようなら。

 

 
春日信彦
作家:春日信彦
卑弥呼の首輪
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