ノマド

 十五、

「しかし、君、私が白い姿だったのは幸いだろう。突然変異というのかな。白く生まれた私はワタリガラスにしては虚弱だが、その分友人の目にはつき易い」
「私も、ちびで丸っこく育ったから、あなたの目に止まるでしょう」
「勿論だ」
「失礼な」
「お互い様ではないかね」
「失礼な、失礼な」
 カラス。私の、カラス。いつかまた会えるだろうと言い残し、白い、世界で最も大きく偉いワタリガラスは飛び去って行った。次の冬に会いましょう。私の叫びは届いたろうか。何せ、彼女は飛ぶのが速い。風を切る音で聞えなかったかもしれない。嗚呼、恥ずかしい。屋上から叫ぶ、平凡な娘。

 十六、

 こうして高校三年生における私とカラスの話は終わる。冬の最中から終盤にかけてのお話である。その後何度となく彼女を見かけ、人の姿で出会う事もあったが、ワタリガラスは人間より寿命が短い。渡りを止めたのか、その間に死んだのか、それとも神の使いにでもなったのか知らない、とにかく数年後には白い姿を見る事もなくなり、私は代わりとしてムニンのストラップを買った。

キリ子
ノマド
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