君たちが居るところより、一番近くて一番遠いところ。
きなこという黒猫が赤い屋根の家で1人で暮らしていました。
ある日、きなこが散歩していると、素敵な青い屋根の家の前を通りかかりました。
そして、そこの庭には、きなこの見たことのないきれいなきれいな黄色い花が咲き乱れていました。
「わあ、きれいな花だなぁ。僕の家の庭にも、あんな花が欲しいなあ。」
きなこは家に帰り、食事の時も、お風呂の時も、ベッドの中でも、あのきれいな黄色い花のことで頭が一杯でした。
次の日、またきなこはあのきれいな黄色い花の咲いている青い屋根の家の前まで散歩にきました。
今日もきれいな黄色い花は、風とそよそよ笑っていて、益々きれいに見えました。
「いいなあ。なんて花なんだろう?この家の人に聞いてみようかな。」
と、きなこがふと青い屋根の家の方を見ると、その家の窓から、小さな目がこちらを見ていて、目が合った途端隠れるのが見えました。
「今家の中から誰かが見てたけど・・・・」
その日もきなこは家に帰って、食事のときも、お風呂のときも、ベッドの中でも、あのきれいな黄色い花と、窓から覗いてた小さな目のことで頭が一杯になりました。
そして次の日、きなこは庭になっているリンゴの実をとりながら、あのきれいな黄色い花と、窓から覗いていた小さな目の持ち主のいる青い屋根の家のことを考えていました。
「あんなに素敵な家なんだもの。きっと、とっても素敵な動物がすんでいるに違いない。思い切って訪ねてみよう。」
きなこはそういうが早いか、りんごをバスケットに詰め、青い屋根の家に出かけました。
青い屋根の家は、今日もきちんとそこにあり、きれいな花は太陽の光の中で笑い、窓辺ではカーテンが光の中で踊っていました。
きなこは自慢のリンゴの入ったバスケットを片手に、青い屋根の家のドアの前に立ち、息を整えコンコンと二回ノックしました。
「はーい。」
中から返事が聞こえたと同時にドアが開き、真っ白い猫が出てきました。
「こんにちは。僕、あっちの丘の上の赤い屋根の家に住んでいるきなこです。庭のおいしいりんごを持ってきたので一緒に食べませんか?」
きなこがドキドキしながら言うと、
「わあ!ありがとう。私はたまご。ちょうど今、おいしいお茶をいれるところだったの。どうぞ入って!」
たまごに案内されて入ったその部屋は、とても清潔でこざっぱりとした部屋でした。
きなこが座ったそのいすも、とても座り心地がよく、きなこはとても気に入りました。
たまごがおいしいお茶をいれ、きなこがりんごを切りました。
「どうして私の家にりんごを持ってきてくれたの?」
りんごをかじりながらたまごが言いました。
「う、うん。散歩のときにこの家の前を通って、君の庭に咲いているきれいな花を見て、なんて名前なのか聞こうと思ったんだ。」
きなこがそう言うと、たまごは
「そうだったの!あの花の名前は「まつよいぐさ」っていうのよ。
鳥が種を運んできたの。私はずっと庭に素敵な花があったらいいなって考えていたからね。一輪咲いて、あとは
どんどん増えたの。」
「へー、君はとっても運がいいんだね。どうしてそんなに運がいいの?」
「運じゃないよ。簡単な魔法。本当に真剣の気持ちで願ったからよ。」
たまごが言いました。
「そんなことあるわけないよ!考えたくらいでなるわけない。」
きなこが言うと
「ほんとよ。考えたのよ。だから今こうして私とあなたはお茶を飲んでるでしょ?私はあなたとずっと友達になりたいって考えてたの。」
たまごはそう言うと席を立ち、小さな小瓶をきなこに渡しました。
「これ、あげる。」
それはきなこが欲しいと思っていた、あのきれいな花の種でした。
キラキラ咲いた「まつよいぐさ」の花。
君たちのいるところから一番近くて一番遠いところに、
きれいな黄色い花の咲き乱れる赤い屋根と青い屋根の家がありました。
まつよいぐさ 花言葉は 「魔法」