セクター17(冷凍人間SF)

セクター17(青春と学問の街)

突然の電話だった。
「とにかく行くから、動いちゃだめだよ」
 何かが大きく変わり始めていた。
その日は何故か、やがて来るだろう永い闇のようなものを予感していた。
「いったい何があったんだろう。あんなに脅えるなんて・・・だいじょうぶ、だいじょうぶ」
なんだか全身が震えていた。
自分の中の何かが崩れないように自転車のペダルを強く踏んだ。

ビルの廃墟跡。

彼女は死んだようにそこに横たわっていた。
「奈々子なの・・?だいじょうぶ?何があったの・・・?」
 「来ないで!」  奈々子の声が鋭く空気を遮った。
「これから、死ぬからそこから見ていて!」
 「奈々子怪我してるよ。家に帰ろう」
「::。。、。・・・」奈々子の言葉は小さかった。けれど確かに聞こえた。
 「なに?いったい何のこと?」有紀のその言葉は声には成らなかった。
    何かが壊れる音がして有希は我を忘れてただ立ちつくした。
「有希、さよならね」
 その声に気づいた時、有希は自分の目を疑った。
「なぜ・・・・・」
  奈々子は溶けていた。少しづつゆっくりとでも確実に。
有希は、まるで波の音を聞くように溶けて行く奈々子を、ただ呆然と見つめていた。
「これは夢、夢、夢」何度も心の中で呟いていた。
気づいたとき有希はかつていたはずの奈々子の側に立っていた。
「いったい私はいつから、ここに居たんだろう」奈々子はきれいな泡に成っていた。
「もしもし奈々子帰ってますか?」有紀は奈々子の家に電話した。
「はい、斎藤です。奈々子?うちにはそう言うものは居りませんが?」
「奈々子のお母さんでしょ。有希です。奈々子出してください」
「家は斉藤です」
そう言うと電話は切れた。何度かけても同じだった。
有希は急いで学校へと向かった。

学校の教室

「あ、りさ、奈々子ん家何番だった?」
「誰それ?」りさはまじめに答えた。
「ふざけないでよ!」
「有希だいじょうぶ?夢見てる?」りさに奈々子の記憶はなかった。
「・・・・ごめん」
いつもの教室、「いったい何がどうなっているんだろう」
教室の窓から遠くを見た。青い嵐が季節を運んでいた。奈々子は何処にも居なかった

イメージ音楽(ピアノ)

ごまさま.mp3優しいピアノ弾き語り(添付許可あり)

真実への道

 親友奈々子の存在は何処にも誰の記憶にも、存在していなかった。
「死んだんだね。でも私だけ覚えてる。そんなのいやだよ」
有希は恐る恐るパソコンのアルバムを開いていた。
「いない!何処にも。奈々子!私どうしたんだろう。助けて奈々子」
パソコンのアルバムにはデータが全てなかった。
友達は消えた最初から、存在していなかったというのか?
有希は泣き疲れて眠っていた。
自分が壊れそうだった。
「有希あなたは冷凍人間なんだよ」奈々子は最後にそう呟いた。
   ・・・・・・「じゃあ奈々子はいったいなんだったの?」

 

2022年人類は体の限られた部分に限り(植物によって)コピーする事を認証した。
蛋白質の技術革新は植物の枠を超える悪魔のテクノロジーと呼ぶものもあった。
2022年、人類が封印した 「運命の子」 冷凍人間。

次の日、それでもいつもと変わらぬ朝が来た。
「有希、おきなさい」
ママの声はいつもと変わらず優しかった。
「おはよう、ママねえ、奈々子って知ってる」
「いいえ、お友達?」
「・・・」
「今日、学校休むから」
有希はベットの天井を一日眺めていた。
その日の夜、隆史から電話が掛かってきた。
「有希どうした?風邪だって。珍しいな、あははは、裸で寝てただろ」
「ばか!重症よ。ねえ明日家に来てくれる。大事な話あるから」
「おう、ついに告白か」隆史は明るく言った。
「もう、相変わらずね。とにかく来てね」
「なんだよ。大事な話って」
「明日、明日話すから」
そう言って有紀は携帯を切った。
 「これも幻・・・・・・?」しばらくの間膝を抱えていた。

次の日の朝
「ふうん、俺も覚えてないよ。とにかく行ってみようぜ!」
「ありがとう」
有希は隆史に抱きついた。隆史は、ずっと前から有希を抱きしめていた。
隆史は有希にバイクのヘルメットをかぶせる

と、なぜか寂しそうな顔をした。

タイムカプセル

 有希と隆史は公園の隅にある桜の木の側に来た。
そこは、奈々子と有希のちいさい頃からの遊び場だった。
ちょうど今頃、奈々子と有希は桜の木を吸い込んでいく青い風を見た。
天に舞い上がる不思議な情景は、今でもはっきりと覚えている。
「ゆうちゃんのパパあそこにいるんだよ」
奈々子は自慢げに言った。
早くに父を亡くした有希にとって、奈々子の言葉はそのまま有希の自信になった。
タイムカプセルの中に奈々子の写真が見つかる。
それは、奈々子と有希の幼い頃の写真だった。
ふたりは並んで楽しそうに笑っていた。
奈々子と有希の後ろには、あの時、おじいちゃんと見た、桜の木がふたりを覆うように茂っていた。
しかし、次の瞬間有希は、ぞっとした。
そう、日付けが2012年6月21日になっていた。
「ねえ、冷凍人間の話聞いた事あるでしょ」有紀は隆史に聞いた。
「ああ、Motherが探しているとか言うあれか?

桜の花びらが、きれいに風に舞っていく・・・・小さかった有希はいつか自分自身と戦う事を予感していた。
静かだった。鳥たちの話し声を聞いていた。赤い花が咲いていたような気がする。
時間がゆっくりと違う蝶、黒く豹変した紫の蝶、たくさん空に吸い込まれていた。
木々は私を包み込むように、いつも何かの音が流れていた。
静寂と鎮守の森・・・・・・・
何か大切な事が、繰り返し流れていた あの音?
「たしか言葉が・・・・・・」
有紀の記憶はロックされていた。
「有希、おい、有希」
隆史の声ではっとして有希は我に返った。

夏目 らん
セクター17(冷凍人間SF)
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