家に帰った有希は、しばらくぼう然としていた。
ベットに横たわる自分の体がとても重かった。
ここ何日かちゃんと眠っていなかった。
やがて、ラジオから流れるビゼーの悲しい音に気づいた・・・・。
有希は、初めて泣いた。
いつも包んでくれた優しい森のしらべが音をたてて崩れて行く。
「自分はここにいてはいけない子」
そう、有希には有希の知らない時間の空白があった。
それが何を意味しているのか、有希にはなんとなくわかった。
突然、警戒発信音がした。
「ピピピピピピピ・・・・・」
しばらくして、ドームは閉じられた。
最近ドームはよく閉じられる。
有希「また、眠るのか」
有希は少し憂鬱だった。
地球の環境破壊はとても深刻なものになっていた。
空気の二酸化炭素は行き場を無くし人類は、空と大地にたくさんの壁を作っていた。
そして、一度崩れだしたバランスはコンピューターの予想をはるかに上回り、
ドームの存在さえ危ぶまれた。
当初ひとつ、ひとつのドームのシステムは完璧な循環システムだった。
森を思い通りに修復し、デザインし、まさに人類の理想郷として作動した。
目覚めた時、有希の目の前に隆史がいた。
「隆史?」
「有紀、しずかに・・・・システムをロックしてきた」
「どうしたの?システムのロックって犯罪だよね」
「ああ、たいした事じゃないさ。有希、僕のキスで眠るかい?それとも、真実を僕と探すかい?」
「・・・・・・・・・」有紀は全てわからなかった。
隆史はそっと有希にキスをした。
有希はあまり突然で、自分の感情がばれないように、そっと横を向いた。
隆史は、また悲しい顔をした。
「見てごらん。ここ!」
「Martherの放射能危険レベル?」
「ああ、僕たちはひとりひとり大切な役割を持ち、このドームの安全を守っている。奈々子が溶けたのなら、奈々子は完全な3Dかもしれない。奈々子は完 全にコピーされ、たぶん1年で鍵である、有希を見つけたんだろう。Martherの中に侵入出来るのは、冷凍人間である、有希、君だけなんだ」
「3D? 人間のコピーは法律で反対されたよね」
「ああ、正しくは奈々子は植物蛋白の3Dってとこかなあ」隆史は言った。
「Marthが奈々子を創造したの?」
「正確には、ドームにハッキングしたって事かな?時が来たんだ。僕の鍵は有希を守る事だ。有希の空白の時間をうめる」
「隆史が私の何かを知っているの?」
「ああ、だいじょうぶ。泣かないで・・・・・・」
「地球の未来を創造していくの?」有紀は隆史に聞いた。
「ああ、だが時間は問題ではないんだ。生きる意味を捜す旅人に過ぎない。それぞれの記憶の中に繋がった優しい約束だよ。有希の思う人生を選んでいいんだ」