シャボン玉ムーン

第1章 あの頃( 8 / 16 )

「スローモーション」

 ゆっくりと、時が過ぎてゆく。

電話も鳴らずに、ただ静かに、時が過ぎてゆく。

いつもより、時計の針がスローモーションの様に動いて行く。

青い空を映す様に青いプール、雲の流れが早い様で遅く感じる。

夏の海辺は心に安らぎを与えてくれる。

蝉の声もないこの島で、BGMと水の音と、子供達の歓声が聞こえる。

夕方だというのに、日がまだ高い。サンサンと輝く太陽に、

瞬きする回数が自然と増えてしまう。ちょっとハイレグで、胸と背中の大きく開いた水着に、周りの視線が刺さって来る。少し快感かな?!

 このままずっと、時の経つのを忘れて過ごしていたい。

 そんな気分に浸っている。

第1章 あの頃( 9 / 16 )

「ある日のこと!」

 家族が旅行に行く事になり、久しぶりの独りきりのゆったりと、のんびり過ごせる日が、やって来た。

お中元の時期も落ち着いて来ているので、特別、家にいる必要も無い。まして、今は、宅配便に連絡すれば、在宅時間に届けてくれる。

 しかし、問題が一つあった。日頃しない「ごみ出し日」がある。家のものが、「月曜日の朝、○○  さん家の前に、生ごみだけ出しておいてね。」と言ったので、当日は、忘れない内にと、朝7時に  出してみると、米袋に入れたごみが、1つ先に出ていた。早速と思ってその隣に置き、お役目ご苦労様と自分に言い聞かせ、家を出た。

 その日の夜は生憎、風も強く台風が接近と言う事で、朝置いたごみの場所には、目もくれなかった。 
翌朝も、飛び起きて、火の元・戸締りを確認後、慌てて出掛けた為、見もしなかった。

  すると、その日の夕方。まだ、薄暗い家の陰に、何やら見覚えのあるゴミ袋が、それも、ポツンと1つ、残っているではないか。
“大変だ!”と思うや否や、門を開けてそそくさと、ゴミ袋を家の中に入れ、裏木戸を開けて外に出してみたものの、やはり、居てもたってもいられない。外食をする訳でもなく、明日帰宅する家族の為に、掃除や洗濯・炊飯や麦茶作りに励んでいたのが、まるで水の泡となる。
   このたった1つのゴミ袋の為に、自分は“何も出来ない、役立たず”になってしまうのだ。

 困り果てた挙句、川原に捨てに行く事を思いついた。
暗くなり、近所の家が茶の間のひと時に寛ぐ頃を見計い、徐に、自転車の荷台にゴミをロープで巻きつけ、一目散に走り出した。
いつもなら、外へ出ても挨拶をする自分が、人影を恐れ、犬の散歩で知っている人に出逢うと、より一層ペダルを漕いで川原へ向かう。
国道が堤防沿いに走っている為に、休憩している車も有る。“もし、誰かに見つかったらどうしよう”“あとで、強請られたらどうしよう” などと、決して死体を捨てる訳では無いのだから、要らぬ心配の筈なのに、心臓の音が高鳴ってくる。車のヘッドライトが切れるのを待って、やっとの思いで川原へゴミを捨てた。

 ホッとした途端、真っ暗な川原に佇む自分がまた怖くなり、今来た道を一目散に自転車を走らせた。脇目も振らず、ただひたすら走り続けた。
   やっとの思いで漸く家に辿り着き、門を閉め、家の中に入った途端、全身からドッと汗が噴き出した。

 もう、2度と、こんな思いはしたくない。そんな「ある日の事」であった。

第1章 あの頃( 10 / 16 )

「天使の涙」

 女性の涙には窮めて弱い。何故なら、どういう理由で泣いているのか判らないからである。

例えば、恋愛関係にある男女の別れ話においての、女の涙というものは、別れを惜しむ気持ちの表れか、楽しかった時の思い出に浸る表現と伺われるが、恋愛の真っ只中においての、女性の涙については、男にとって理解し難いものがあるからなのである。何故なら、本当に、自分の事が好きなのか、嫌いなのか、愛し合いたいのか別れたいのか。どういった理由で泣いているのかという、理解に苦しむ事となるのである。

当然それは、恋愛関係における付き合い方にもよるが、一般的には、独身男女の間においての女性の涙と考えた場合、はっきりとした決断に対しての表現では無く、単に相手に対して〈この場合、女性が男性に対しての〉浮気心を修正して欲しいのであるとか、結婚して欲しいのであるとかと言った、女性的な我儘から来るものが比較的多く感じられるのである。

 しかし、一時流行語にもなった〈失楽園〉  状態であると、これは全く違ったパターンになってしまうのである。男性の場合、余程の自信家で無い限り、相手の女性の気持ちを満足させる事が出来ず、常に女の涙を見る羽目になってしまうのである。
依って、困難には困難を極めるもので、愛情の強さを言葉で表現し、相手の気持ちを満足させる事など、並大抵の御仁には出来そうで出来ない事なのである。

 それも、愛し合う、うたかたの中で、男性が女性に対して、今は幸せかい?と尋ねた途端に、ポロポロと涙を流されてしまっては、男性として、何を言ったのが悪かったのか、泣かせてしまった事に、ただオロオロとするばかりなのである。

 世の中は、恋愛に年齢は無いと良く言われるが、お互いの境遇にもよると考えられる。妻子ある男性と独身女性。
それも既婚暦無しの女性の場合には、余程彼女が忍耐、信念、愛情、倫理と弁えていなければ、成就しない恋愛関係なのでは無いのだろうか。

 私なんぞ、御仁のお足元に及びもしないのだが、今も世の女性方の涙を目の当たりにすると、こちらも貰い涙をするばかりで、何一つ、事の次第を解決出来ないまま、ただ時の過ぎ行くのを待ち続けるズルイ若輩なのである。

第1章 あの頃( 11 / 16 )

「島のスケッチ」

 赤や黄のハイビスカスが眩しい。青い空と白い雲は、この島の宝だから、と土地の人は言う。

昨晩の月は明るく、澄んだ空に一際映えていた。
今日もギラギラと太陽は、肌の皮下組織まで到達しそうな勢いだ。強力な日焼け止めを塗っていても、30分も日向を歩けば、肌は赤みを差して、顔も鼻もほっぺたも、ヒリヒリして来る。

見知らぬ花が鮮やかに咲き、名も知らぬ街路樹は、小さな青い実を尽けている。
石畳を降り尽くすと、ある家の中から、散歩に出てきた猫と出くわし、暫くしゃがんで話し掛けてみる。ブルーアイが印象的だ。

歩き疲れて、やっとの思いで見つけた喫茶店。
注文の時に出てきた、冷たい麦茶に感激。
出てきたアイスコーヒーのビッグサイズに驚き!しかし、のどの渇きは、すっかりと飲み干してしまった。
あかね しづか
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