「センセー!」佳織は長い髪をなびかせ人ごみの中から手を振って走ってきた。拓也は会場から手を振ると笑顔で佳織を迎えた。「先生って、子供ね」佳織は子供のような拓也が好きだった。「出発の時間までたっぷりあるな。食事でもしよう。ここがいい。何でも食べていいぞ。最後のデートだからな」佳織の背中を押して中に入った。「え、最後の!なんだか、いつもの先生じゃないみたい。どうかしたの?」佳織は窓際の席に着くとピザとアップルジュースをたのんだ。
「先生、なぜ目をそらすの?行くの止めようかな」佳織は拓也の表情に暗い影を感じた。「佳織、頑張るんだぞ」拓也は一切れのピザを佳織の口元に運んだ。佳織は大きな口をあけてぱくりと食べたが、いつもと違うハリの無い声に佳織は不安になった。「先生、もしかして、さよならを言いに来たの?そうなのね、どこか佳織の知らないところに行ってしまうんだわ」佳織の瞳が潤んできた。「馬鹿だなー、ほら」ハンカチを取り出すと佳織のほほにあてた。
佳織を乗せたスペースライト555は一瞬にして消えた。拓也は心の底で別れを告げた。「おじちゃーん」拓也のところに黄色い風船を手にした5歳ぐらいの女の子が膝を高く上げながら勢いよく駆け寄ってきた。「持ってて、手を離しちゃだめだよ」女の子は急いでトイレにかけていった。屋外のイベント広場の入口には多くの子供たちがひしめき合っていた。