1歳ぐらいのヨチヨチ歩きの坊やが入口にやってきた。そのとき後ろから男の子が坊やを倒して駆けて行った。「あ!」拓也は坊やに小走りに駆け寄った。すると、お姉ちゃんらしき女の子が走ってやってきて、泣き声を上げた坊やを抱きかかえるとあやし始めた。「おじちゃん、風船は?」トイレから戻った女の子はきょとんとして拓也の顔を見上げていた。拓也の左手には黄色い風船は無かった。
「あ、お空にあげちゃった、ごめんね」拓也は真っ青の空を見上げた。そこには小さな黄色い風船が懸命に空に向かって駆け上がっていた。「きっと、お空さん、喜んでるね、おじちゃん」ニコッと笑った女の子は全速力で会場にかけていった。