魔界島の決闘

 スタート時間、10秒前。アンナは胸の十字架を握り締めた。3,2,1、スタートのフラッグは振られた。フェラーリは雄たけびをあげた。


 さやかと桂会長は五重の巨塔のリビングでハイビジョンモニターに映し出された真っ赤なフェラーリをじっと見つめていた。桂会長は二人の決断に驚いていた。まったく勝ち目が無い勝負に挑んだ二人に対してほんの少し畏敬の念を感じた。しかし、さやかを手に入れることに関しては容赦しなかった。すべて計画通りにことは進んだ。


 S字コーナーは完璧なラインをとった。各コーナーもいつもの速度で通過できた。しかし、結果のタイムは予想されていた。さやかとの別れがアンナの脳裏をよぎった。涙が突然あふれでた。もはや冷静ではいられなくなっていた。アンナは神に祈り、最終コーナーで限界速度に挑戦した。「ママ」悲鳴とともにアンナはアクセルを踏んだ。

 さやかはスタートからずっと神に祈っていた。アンナの勝利を信じていた。桂会長は勝利を目前にしてソファーで走りを眺めていたが、最終コーナーに突入したアンナを見て目を閉じた。アンナの安否を気遣ったのだ。スピンすれば生死をさまよう大事故になる。彼も神に祈った。命だけはお守りくださいと。


 彼が目を開けるとフェラーリはゴールに向かって驀進していた。MAXスピードはモンスター以上にチューニングされてあった。37・38・39・40・41時間は止まった。タイムは1分51秒841であった。アンナはあふれる涙で何も見えなかった。「やった、勝った!勝った!」さやかからの無線の悲鳴を聞くと気を失った。


 さやかは涙が止まらなかった。奇跡は起きた。さやかは涙を流しサーキットに飛んでいくとアンナをしっかりと抱きしめた。アンナはさやかとの別れを阻止できたことで涙が止まらなかった。


 10時に迎えのヘリがやってきた。二人は桂会長と別れの挨拶をしようとしたが彼の姿は無かった。代わりにサリーが飛び立つ二人に大きく手を振った。彼は五重の巨塔のリビングにいた。大きなモニターに映し出された飛び立つヘリを一人じっと見つめていた。そして、宝石箱から十字架のペンダントを取り出すと首にかけた。それは再会の約束を誓って、レイナからプレゼントされたペンダントであった。

春日信彦
作家:春日信彦
魔界島の決闘
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