魔界島の決闘

 ガイドは三人をキャデラックに乗車させると由布岳に向かって走った。30分程走るとヘリコプターが二機待機した観光客専用のヘリポートに到着した。ガイドは二つのプロペラを備えた8人乗りのヘリに案内した。機内の空間は広く、中央には飲食ができる円形カウンターがあり、機体の左右は眼下を一望できる大きな窓となっていた。360度回転するシートは中央の円形カウンターの前方に四つ、後方に四つ設置されている。


 進行方向左手のシートに拓也とガイド、右手のシートにさやかとアンナが着座した。全員がシートベルトをすると機体は心地よい音で離陸した。離陸後5分程するとパイロットはアナウンスを始めた。「このたびイーグル社をご利用いただきありがとうございます。皆様をお迎えした電機ヘリコプター、シルバーウィング888での観覧をお楽しみください。後10分ほどで久住高原上空に参ります」きれいな声のアナウンスは女性の声であった。


 「あそこにもヘリコプター、あら、手を振ってるわ」さやかは右手のアンナの顔をのぞく。「さやかったら、ガイドさん双眼鏡貸してよ」ガイドはシート前方にあるボックスから双眼鏡を取り出し三人に手渡す。アンナはしばらくブラックのヘリを双眼鏡で覗く。「あの女性、サリーさんじゃないかしら」アンナがつぶやくと「隣の男性は桂会長じゃない」とさやかがつぶやく。拓也はシートを180度回転させるとすばやくアンナの横に駆け寄り双眼鏡を覗く。

 「確かに、男性はあの桂会長だよ」拓也は双眼鏡から目を離すとアンナの顔を見つめた。ガイドが怪訝な顔をしているとアンナはブラックのヘリを尾行するようにと叫んだ。ガイドは2Fに上りパイロットに指示すると拓也のところにやってきた。拓也が事情を説明するとガイドは頷いたが、あのヘリには近づかないほうがいいと忠告した。あのヘリは魔界島専用のヘリであることを三人に説明すると、予定のコースに戻るように促した。


 魔界島は殺人兵器を製造する人工島で、それは種子島と屋久島の中間にある小さな島です。日本の警察も立ち入れない危険な島です。ガイドは顔を青くして震えながら口を動かした。拓也は二人に尾行を止めるように説得したが、アンナは頷かなかった。アンナはサリーの言葉に不信感を持っていた。何かを隠しているとひそかに思っていた。


 ブラックのヘリは速度を増し南に向かって驀進し始めた。大隅海峡を越えると大島が眼下に飛び込んできた。ヘリはさらに直進し魔界島に向かった。魔界島に着陸したヘリを見届けるとシルバーウイング888はしばらく上空に留まった。ガイドは早く引き返すために、もう一度魔界島の恐ろしさを二人に訴えた。魔界島の周りを取り囲んでいる電波基地は脳波も狂わせるほどの電磁波をいつでも発射できること、さらに島の地下では大量殺人化学兵器を産業用ロボが製造していることなど。

 ガイドの恐怖に慄いた表情に拓也も身が振るえ、一刻も早く引き返すべきだと二人を説得したが、アンナの耳には届かなかった。アンナは魔界島に下りる決意をさやかに伝えるとさやかも大きく頷いた。二人は明朝10時に迎えに来てもらう約束をすると魔界島に降り立った。二人が大きく手を振ると拓也は暗い顔で小さく手を振りヘリは飛び去った。


 ヘリポート中央から東に20メートル程歩くと、二人を待ってたかのように白鳥ケーブルカーが歓迎した。白鳥ケーブルカーで丘の上まで行くと大きな門が閉まっていた。しばらく門を見上げていると静かに門が開いた。そして、どこからとも無く聞いたことのある声がした。「いらっしゃい、お嬢さんたち」門をくぐると入口の左右にラクダが控えていた。「どうぞお乗りください」とラクダがしゃべるとゴールドのらラクダはアンナの前に、シルバーのラクダはさやかの前に歩み寄り手足を折りたたんだ。


 ラクダがゆっくりとピンクの芝生の上を五重の巨塔に向かって歩いていく。右手には五羽のウサギたちの合唱、左手にはチューリップ、スミレ、ヒマワリたちが合唱にあわせてダンスしている。この島は多くのロボがプログラムに従って規則正しい動きをしている。これらの動物は二人の動きをセンサーで確認し島の地下にあるホストコンピューターに情報を送っている。巨塔からは島全体の様子をカメラで監視している。

 二人が乗ったラクダは楕円形プールの横にある白いビーチテーブルの横で止まる。テーブルの中央には花柄のビーチパラソル。二人はラクダから降りると気温が秋にしては暖かいことに気づく。テーブルに腰掛け拓也に電話しようとさやかは携帯を取り出す。「電話が通じない。時計も止まっているわ。どうしたの?」さやかは何度も携帯にタッチする。アンナも時計を見たが止まっていた。アンナが驚いて立ち上がると、無表情の少女が錠剤を運んできた。


 プレートの小皿には五色の粒が二個ずつ乗っていた。赤はタンパク、黄色はエネルギー、青はビタミン、白はカルシュウム、紫はホルモンとなっていますと機械的に説明すると少女は消えた。アンナは五つの錠剤を一気に飲み込むとデミカップの赤いジュースをグウィと飲んだ。「この薬、きっとこの島で暮らすのに必要な薬ね」さやかは一粒ずつ味わいながら飲み込んだ。


 「腹へった」アンナはおなかに手を当てる。さやかは今の時間は分からなかったが12時30分を過ぎていると腹時計で感じた。アンナがこぶしでテーブルをたたくと体が宙に浮いた。「助けて、さやか」アンナは突然の無重力に驚く。これは人工島の重力が千分の一に操作されている。50キロのアンナは50グラムになった。「いったい、誰のいたずらよ」アンナは悲鳴を上げる。二人を五重の巨塔に誘導するために地下のホストコンピューターが重力制御を行ったのだ。

春日信彦
作家:春日信彦
魔界島の決闘
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