ラスボスの思想(40)

            予言の未来

 

 いつの時代にも予言は、人々の関心を集めます。予言は、未来に関する発言ですが、ほとんどの場合良い事象の予言より、悪い事象の予言のほうが話題となります。例えば、来年、巨大地震が起きるとか、富士山が大噴火するとか、巨大隕石が落下するとか、災害に関する予言は最近よく聞かれます。また、これらの予言には、説得力があります。と言うのも、過去のデータからすると予言の事象が起きる可能性が高いからです。

 

 予言は、推理ではありません。一般に言う推理は、具体的な事象を根拠に論理的に可能性を導き出すものです。一方、予言は、確かな根拠を示すことはなく、未来の事象を発言することです。しかしながら、いくつかの予言が的中するとその予言者の発言は、説得力を持ちます。私たちは、予言は科学ではないため、あくまでも参考にするにすぎませんが、過去のデータに関連付けれる地震や噴火の予言は、なんとなく信じてしまいます。

 

 

 仮に、202575日にフィリピン海に巨大隕石が落下する、もしくは南海トラフ地震が起きると予言されると、まさかと思う反面、周期的には、地震は起きる可能性があると思ってしまいます。地震に関しての研究はかなり発達していますが、今のところ、地震の発生時期を正確に言い当てることはできません。だから、地震に関しては、予言となってしまうのです。最近では、頻繁に巨大隕石落下や巨大地震の予言がなされていますが、人々を恐怖に陥れる予言には、何らかのメリットあるのでしょうか?

 

 そこで、私たちの時間における認識について考えてみましょう。私たちは、今まさにこの瞬間に生きています。認識は、生きている人間の瞬間の精神活動です。微視的に見れば、未来は、瞬時に現在になり、瞬時に過去となっていきます。それらの時間認識は、言語化されることによって客体化されます。日常生活においては、直近の未来を意識しながら行動していますが、朝食をとるとか、明日出勤するとか、数時間先の未来については特に意識していません。と言うのも、明日の行動は、昨日や今日の行動の繰り返しだからです。未来を強く意識するのは、過去や現在とかなり違った事象を想定するときではないでしょうか。それは、来春に結婚する、というような幸せな事象もあるでしょうが、余命6ヶ月です、と医者に宣告されたときのような不幸な事象もあります。

 

 

 

 前述した巨大地震発生のような未来は、考えたくありませんが、仮に、来年、南海トラフ地震が起きる可能性が高いとユーチューブで報道されたならば、気が気ではありません。予言ですから、来年南海トラフ地震が起きるとは限りませんが、予言を信じ海外に移住する人たちがいるかもしれません。でも、日本から脱出することができない人たちは、可能性は否定しないまでも予言を無視するでしょう。予言を信じた人がいても日本を脱出できない現実に直面したならば、運を天に任せる以外にありません。

 

 私たちは、今を生きることで精一杯です。未来の不幸を簡単に排除できる手段を入手できるならば、誰しもその手段を利用するでしょう。でも、海外移住のような手段は、誰しも採用できません。私たちは、未来を考え、最善の生き方をしたいと思ってはみても、それを実現するのは至難の業ではないでしょうか。結局、未来をどんなに予想しても今できる生活を続ける以外にないのです。生物としての人間を考えたならば、人は必ず死にます。早いか遅いか、事故死するか病死するか、いずれにしろ必ず人間は死に至ります。細胞の変化なのです。

 


  今、不幸な予言を例として未来を考えてみましたが、私たちは未来が大好きなのです。だから、いかなる予言も大好きなのです。たとえ、予言が不幸なことだからと言ってその予言を非難はしません。それを一つの娯楽として楽しむという遊び心があるのです。私たちの脳は、過去や未来を作り出します。言い換えると、時間は脳が作り出した一種の記号なのです。また、脳は、無限に記号を創造し、その人の記号世界を創造しています。だから、人の数だけ世界はあるのです。ほとんどの人は、記号生活を意識しません。と言うのも、生まれた時から記号生活をしているからです。そして、記号に変化が起きるとその人の記号世界も変化するのです。

 

 予言を題材に時間について考えてみましたが、現在、急増している認知症患者の時間認識について考察してみましょう。仮に、あなたの言語中枢機能が低下し、所謂認知症となり、既存の記号が消滅し、さらに新しい記号を作れなくなったとします。すると、あなたに内在する記号時間は失われるのです。過去も、未来も、消滅してしまうのです。時間のない瞬間を生きているだけになります。例えば、何十年も育てた子供がいる母親でも、子供の顔も名前もがわからなくなります。また、今いる所在地もわからなくなります。過去、現在、未来を認識できるということは、脳が健全に機能しているということです。私たちは、脳に感謝し、今まで以上に、有効に活用していかなければなりません。お互いの脳を尊重し、共生を図ってまいりましょう。

 

 

 

 

        一休川柳

 

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春日信彦
作家:春日信彦
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