死神サークルⅢ

            発狂

 

 117日(月)長崎市にあるN病院に午後130分少し過ぎに到着した。主治医との約束時間は、2時のため、満席の待合室で時間をつぶすことにした。電話では、面会は難しいといわれたが、とにかく主治医を説得して面会することにした。ぼんやりしているといろんな考えが浮かんできた。安倍警部補は、警察との面会を嫌っているようだが、何かにおびえていることから、誰かに恫喝されているのではなかろうか?警察官が、恨みを買うのは、日常茶飯事だ。でも、殺されると叫ぶほどの恫喝を受けているとなれば、恫喝者の目星がつくのではなかろうか。例えば、かつてヤクザを逮捕したとか、逮捕された者が有罪になったが、冤罪を訴える親族がいたとか、そうことであれば、過去の事件を調べれば問題解決の糸口はつかめる。

 

 だが、全く警察に助けを求めないということは、警察には言えないような何らかの事情があると考えていい。そう考えれば、佐藤警部と安倍警部補は、何らかの不法行為を行っていたと考えていい。となれば、収賄あるいは、密輸にかかわっていたと考えられないか?仮に、サワが言うように殺人予告がなされていたとなれば、恨みからということになる。賄賂、密輸で恨みを買うだろうか?どうも結びつかない。麻薬密輸にかかわっていたと仮定しても、マフィアは殺人予告はしないだろう。口封じをするのであれば、速やかに事故死に見せかけて暗殺するに違いない。いったい、どんな恨みを買って、殺人予告がなされたのか?

 

 あまり考えたくないが、菅原洋次の恨みを買っているのか?では、いったいどんな恨みを買っているのか?でも、菅原洋次が、何らかの理由で佐藤警部と安倍警部補の二人を恨んでいたとしても、二人をマジで殺害するだろうか?それとも、殺害予告をして、精神的に苦しめるのが目的なのか?仮に、菅原洋次に佐藤警部が拉致されて、どこかに軟禁されているとしよう。目的は何か?収賄、密輸についての自白の強要か?自白させることができたならば、警察の悪事を世にしらしめるために、それをユーチューブにアップする気なのか?ちょっと考えすぎか?たとえ、佐藤警部と安倍警部補が、麻薬密輸にかかわっていたとしても、菅原洋次が二人に恨みを持つとは考えづらい?

 

 仮に、菅原洋次が、麻薬取引の現金を持ち逃げしたとしたならば、余計な事件を起こすとは考えにくい。大金を手に入れたのならば、そっと身を隠して、ぜいたくな暮らしをした方が得策じゃないのか?俺だったら、そうする。やはり、菅原洋次と二人は無関係なのか?頭がこんがらがってきたぞ。まとめてみよう。まず、マフィアの線で考えてみる。佐藤警部と安倍警部補の二人は、警察に知られたくない不法行為を行った。また、その不法行為は、マフィアとかかわっていた。そのため、”口封じのためにマフィアに暗殺される”、と二人は思っている。

 

 菅原洋次の恫喝の線で考えてみる。菅原洋次が、二人を恫喝したとするならば、恫喝する根拠は何か?菅原洋次が、麻薬の運び屋だったとする。また、佐藤警部と安倍警部補も麻薬密輸にかかわっていたとする。そう考えれば、三人は、麻薬密輸の線でつながる。普通に考えれば、三人は、マフィアに利用されていたわけだから、菅原洋次は二人と同じ立場になる。菅原洋次が二人を憎む理由が思いつかない。では、菅原洋次が二人を憎む理由があるとするならば、いったい、どんなことか?一つ言考えられることは、出口巡査長の死との関係だ。もし、出口巡査長も麻薬密輸にかかわっていたとしよう。そうであれば、4人が、麻薬密輸にかかわっていたことになる。

 

 現在、死亡しているのは、出口巡査長だけだ。出口巡査長の死が、今回の失踪と恫喝に関係があるとすれば、菅原洋次と出口巡査長に、何らかのつながりがあると考えられる。二人に共通する事項として、二人とも、出身が対馬ということだ。ということは、菅原洋次と出口巡査長は、親友だったのか?年齢差と職業を考えると、親友になるきっかけはどんなことだったのか?あ、そうか、二人とも、クリスチャン。もし、出口巡査長が、佐藤警部と安倍警部補に殺されたのであれれば、菅原洋次が親友の仇を取ると考えられる。でもな~、佐藤警部と安倍警部補が、出口巡査長を殺すだろうか?そうか、直接殺したのではなく、出口巡査長が仲間を裏切ろうとしてるとマフィアにチクったと考えて見てはどうか?

 

 

 出口巡査長の死因が、佐藤警部と安倍警部補の二人によるものだとしても、いったい、なぜ、菅原洋次がそう考えたのか?そうだ、出口巡査長は、彼の事故死の前に、麻薬密輸に関する悩みを菅原洋次に話したのではないか?それで、菅原洋次は、出口巡査長、佐藤警部、安倍警部補の三人が、麻薬密輸にかかわっていることを知ったのではないか?であれば、出口巡査長の死は、単なる事故死ではなく、佐藤警部と安倍警部補によるものだと菅原洋次が思い込んでも筋が通る。でもな~、単なる妄想かもな。今、はっきりしていることは、菅原洋次と佐藤警部の失踪。安倍警部補の恐怖からの発狂。

 

 ふと、伊達は、腕時計を覗いた。155分を確認した伊達は、総合受付カウンターに向かった。伊達は、受付嬢に声をかけた。「2時に、北里先生とお約束している伊達と申します。どちらに伺えばよろしいでしょうか?」受付嬢は、質問した。「精神科の北里先生ですね。ご家族の方でいらっしゃいますか?」伊達は、小さな声で返事した。「いいえ、警察のものです」受付嬢は、一瞬顔を引きつらせた。「しばらくお待ちください」受付嬢は、確認を取った。「では、3階の東病棟受付までお越しください。右手のエレベーターを使われて、降りられたら、右側にございます。伊達は、エレベーターに向かった。

 

 3階の受付で予約を申し出ると男性の看護師に案内された。看護師が医師室のドアをノックして声をかけた。「先ほど連絡いたしましたお客様です」中からだみ声が響いた。「どうぞ」看護師は、ドアを開き伊達を招き入れた。そして、看護師は、身を隠すように素早く立ち去った。北里医師が、固まった顔で突っ立っている伊達に声をかけた。「どうぞ。おかけください」医師は、中央のソファーに手招きした。伊達は、ロボットのような動きで静かに腰掛けた。伊達は、病院が嫌いで、威圧感を持った医者と話をするのが苦手だった。伊達が腰掛けると北里医師も左斜めに腰掛けた。伊達は、早速、お願いした。「30分ほどでよろしいので、面会させては、いただけませんか?詳しい事情は申し上げられませんが、警察内部の事件がかかわっていますので、お願いいたします」

 

 

 北里医師は、なにか考えているような表情でしばらく黙っていたが、低い声で返事した。「電話でも申しましたように、彼は、何かに怯えて、発狂しています。被害妄想を伴った統合失調症と言えます。今のところ、凶暴性は見られませんが、突然、暴力行為を起こさないとも限りません。それでも、面会なされたいのですか?」伊達は、覚悟を決めていた。「承知しております。何らの事故が起きても、一切の責任は自分にあります。先生には、決して、ご迷惑をおかけすることはございません。どうか、お願いいたします」医師は、うなずいた。「警察の方の依頼ということで、特別に、許可いたしましょう。何か、危険を感じたならば、即座に逃げてください。それと、こちらの緊急通報機をお持ちください。この赤いボタンを押せば、廊下に待機している看護士が、即座に、救出に伺います」

 

 医師は、男性看護師を呼び出し、安倍警部補の病室に案内させた。看護師は、病室に入ると患者に面会のことを伝えて出てきた。「今のところ、問題はなさそうです。くれぐれも、言葉遣いには、ご注意ください。では、どうぞ」看護師は、ドアを開き伊達を招き入れた。看護師は、廊下に出ると入り口横の椅子に腰掛け待機した。伊達は、安倍警部補が突然襲いかかて来るのではないかと内心おびえていた。病室には、腰掛ける椅子もなく、ベッド以外何も置かれていなかった。伊達の目の前には、目を閉じて静かに寝ている安倍警部補の顔があった。安倍警部補は、目を開くと小さな声で伊達に声をかけた。「何か?」伊達は、優しい声で質問した。「ちょっとだけ、聞いてもいいか?

 

 安倍警部補は、小さくうなずいた。「あ~~、今も、殺人電磁波で、俺の脳細胞は、破壊され続けている。そして、いずれ、きっと、宇宙人が、とどめを刺しにやってくる。だれも、俺を助けてくれない。俺を助けに来てくれたのか?

訳の分からない返事に困惑したが、質問を始めた。「今月に入って、佐藤警部が、失踪した。何か心当たりはないか?」安倍警部補は、目を閉じて返事した。「佐藤警部、聞いたことがあるな~。前世の話か?前世は、俺も警察官だったのかも。でも、前世のことは、何もわからん」伊達は、質問を続けた。「そうか。安倍警部補は、なぜ、宇宙人に狙われているんだ?心当たりはないのか?」安倍警部補は、震えだした。「なぜだ?俺は、何も悪くない。宇宙人は、悪魔だ。俺は、何も悪くない。あんたまで、俺を、悪者扱いするのか?

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
死神サークルⅢ
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