死神サークルⅢ

            サンタクロース

 

 128日(火)伊達は、北署に到着するとお土産を手にして署長室に向かった。挨拶を終えた伊達は、大野巡査の案内で上対馬高校に向かった。上対馬高校は、思っていた以上に大きかった。大野巡査は、職員室で校長との面会を取り付けてきた。校長室に案内された二人は、柔和な表情の校長の歓迎を受けた。伊達は、早速、用件を切り出した。「お忙しいところ、突然、押しかけまして申し訳ありません。単刀直入に申し上げますと、卒業生でいらっしゃる菅原洋次さんが、7月から、行方不明になっておりまして、そういうわけで、対馬まで捜索に参った次第です。最近、こちらに立ち寄ったということは、ございませんか?

 

 校長は、首をかしげたが、卒業生からのプレゼントの件を話し始めた。「いえ、そういう方は、お見えになっていません。参考になるかどうか、わかりませんが。先日、卒業生のサンタクロースという方から、野球部に野球用具のプレゼントが宅急便で届けられました。その送り主が、だれなのか、心当たりがないのです」伊達は、菅原洋次が野球部であったことから、送り主は、菅原洋次ではないかと直感した。「送り主の住所は、わかりますか?」校長は、首をかしげて返事した。「それが、変なんです。東京都杉並区の住所になっていましたから、確認してみますと、そこはカトリック教会なんです。教会に尋ねましたところ、心当たりがないということなんです」

 

 所在がばれないように教会の住所を利用したものと考えられた。「このようなサンタクロースからの野球用具のプレゼンが、これまでにございましたか?」校長は、即座に顔を振った。「いいえ、初めてです。金額にすれば、かなりの額になります。御礼を申し上げたいのですが、どなたからなのかわかりませんので、困っております。警察の方に探していただければ、助かりますが」安易に引き受けるわけにはいかなかったが、送り主が菅原洋次である可能性を考えると、このプレゼントが、捜索の手掛かりになるような直感がした。「わかりました。そのプレゼントは、どちらの取次店から送られてますか?」校長は、しばらくお待ちくださいと言い残して、席を立った。

 

 

 校長室に戻ってきた校長は、メモを伊達に手渡した。「こちらです」メモには、杉並区、ヤマト運輸高円寺南センター、と記されてあった。伊達は、うなずき返事した。「とりあえず、菅原洋次の顔写真をもとに、こちらのセンターに確認してみます。しかし、送り主を特定できるかどうかは?菅原洋次は、変装している可能性があります。私たちとしては、一刻も早く、探し出したのですが、捜索の手掛かりがございません。また、何か、不自然なことがございましたら、警察にご連絡いただけますか」校長は、うなずいて質問した。「菅原洋次さんは、何か、事件に巻き込まれたということでしょうか?」伊達は、小さな声で返事した。「いえ、まだよくわかりません。奥様から、捜索願届が出されていまして、現在、捜索している次第です」

 

 伊達と大野巡査は、学校を後にすると北署に向かった。北署に到着すると署長に呼ばれた。署長室に入ると異様な笑顔でねぎらいの言葉を受けた。「お疲れでしょ。大野巡査は、役に立っておりますか?佐藤警部の捜索は、当方で手を尽くしております。福岡県警の手を煩わせるほどのことではありません。ごゆっくりなさってください」伊達は、保養所にやってきたのではあるまいし、全く、訳の分からんことを言うものだと内心思ったが、今後の捜査を話すことにした。「佐藤警部の失踪は、警察全体の問題です。一刻も早く、身の安全を確認しなければ、警察の威信にかかわります。本部長の命令でありますので、私は、しばらく捜索に協力させていただきます」

 

 本部長と聞いた署長は、顔が固まった。「それは、ご苦労様です。是非、ご協力をお願いします。大野巡査は、自由にお使いください。また、必要なことがございましたら、何なりとおっしゃってください。ところで、上対馬高校に行かれたということですが、何か?」伊達は、詳しいことは伏せることにしたが、菅原洋次の失踪について、話しておくことにした。「菅原洋次という男性が行方不明ということで、10月に、妻より、捜索願届が出されました。彼の出身校が上対馬高校とわかり、何か、手掛かりはないものかと伺ってみました。それと、佐藤警部の失踪と彼の失踪に、何らか関連がないかとも考えた次第です」

 

 

 目を丸くした署長は、身を乗り出して尋ねた。「何か、関連がありましたか?」伊達は、元気のない声で返事した。「いえ、今のところありません。あくまでも、私の直感ですが、何か、つながっているような気がしてならないのです。これはいけない、刑事は、足です。思い込みは禁物です。こんなことを言っている場合ではありません。早速、私なりに、聞き込みをやってみます」署長は、身をただし、言葉をかけた。「私どもも、全力を挙げて、捜索いたします。ご協力、よろしく頼みます」署長室を出た伊達は、大野巡査に運転を頼み、交通係が使う小型車のスイフトに乗り込んだ。伊達は、サンタクロースのプレゼントが頭から離れなかった。ふと、プレゼンとは、ほかにも送られているのではないかと思えた。

 

 後部座席で腕組みをした伊達は、大野巡査に声をかけた。「サンタクロースのプレゼンとなんだが、高校以外にも送られているんじゃないだろうか?」大野巡査は、うなずいた。「それは、考えられますね。ほかに送るとなれば、もしや、出口家ということは、考えれませんか?行ってみますか?」伊達もそのように考えていた。「出口巡査長のお母さんは、どちらにお住まいなんだ?知ってるか?」大野巡査は、即座に返事した。「確か、瑞恵さんと一緒のマンションだったと思います。住所はわかります。今から、行ってみますか?そうか、仕事かもしれませんね。お母さんは、老人ホームにお勤めです。そちらに行ってみましょうか?」伊達は、職場に行けば出会えるような気がした。「職場に行ってくれ」

 

 スイフトは、385号線を北上し、佐須奈局を左折してさらに北上した。10分ほどすると老人ホームに到着した。大野巡査は、伊達に声をかけた。「私が確認してまいります。しばらくお待ちください」大野巡査は、老人ホームの玄関に向かってかけて行った。しばらくすると大野巡査が、戻ってきた。「いらっしゃいました。少しだったら、お話しできるそうです」二人は、老人ホームに向かった。早速、カウンターで呼び出してもらった。しばらくすると出口巡査長のお母さんがやってきた。彼女が、二人に声をかけた。「何か?5分ぐらいだったら、構いませんが」

 

 伊達は、手短に話すことにした。「お忙しいところ、申し訳ありません。私は、福岡県警からやってきました伊達と申します。すぐに終わります。簡単な質問をさせてください。最近、サンタクロースと名乗るものから、何かプレゼントをお受け取りになられませんでしたか?」目を丸くした彼女は、驚いたような表情で、返事した。「昨日、受け取りました。たくさんの食料品が送られてきました。それと一緒に小さなメモも入ってました。”出口巡査長にお世話になったサンタクロースです。些少ですが、お受け取りください。”と書いてありました。サンタクロース、ご存知なんですか?かなりの量なので警察に届けようと思っていたところなんです。気味が悪くって」

 

 伊達は、うなずき返事した。「サンタクロースのプレゼントは、上対馬高校にも送られていました。彼は、卒業生です。だから、善良な人物とみていいでしょう。そちらのプレゼントは、受け取られて、構わないと思います。ところで、それは、どこから送られてきましたか?東京ですか?」彼女は、首をかしげて思い出した。一つうなずくと返事した。「ヤマト運輸、京都太秦でした。家に帰れば、住所はわかります」伊達は、うなずいた。「京都ですか。いえ、これで結構です。送り主の住所は、教会でしょう。サンタクロースは、クリスチャンなのです。彼は、コロナ禍で苦しんでいる人たちを憐れんで、プレゼントを配っているのです。今も、トナカイに惹かれて、日本中を飛び回っていることでしょう。素直に、サンタクロースに感謝しましょう」

 

 彼女は、おとぎ話をマジにする警察官に笑顔を作った。「そうですか。サンタクロースはクリスチャンですか。親切な方なんですね。それじゃ、ありがたくいただいておきます。伊達さんは、サンタクロースを探しておられるんですか?」サンタクロースは、善人といった手前、捜索願届が出ているとは、言いにくくなってしまった。「いや、国民を代表して、お礼を言いたくて、探しているんです。でも、どこにいらっしゃるのか、わからないもので、困っています」彼女は、提案した。「そうでしたか。サンタクロースは、クリスチャンでしょ。そうだったら、教会を探されたらどうです。疲れた時は、教会で休憩されてるかもしれませんよ」

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
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