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【SCENE TWO】( 2 / 3 )

黒のタキシードスタイル、フリルで盛大に飾られた純白のシャツ、そして髪はルーズなアップにしてふんわりと巻き毛を垂らす。このステージ衣装は実のところ暑くて苦しかったが、オーディエンスからは大好評だった。ホームページでもMyspace でも絶賛の書き込みが続き、写真で見ても、なまめかしさと、清潔さとが香り立つような「男装の麗人」ぶりで、きあらは大河原の才能に舌を巻いたのだった。

 

この時期から20代女性に「宇佐美きあら」人気が高くなりGree で「きあらコミュ」ができるまでになった。そして、「Stranger in town」スタイルは、ドレープをふんだんに使った白のドレスに、まっすぐな髪をおろすだけという、シンプルを極めた姿だが、アクセサリーをふんだんにつけたために、「ローマの休日」のヘップバーンめいた王女様の表情を醸し出している。

 

大河原は、きあらに対して「この新作は、ロックというよりは、ブルースだけれど、21世紀風に研ぎすまされたブルースだと思いました」と語っていた。

「きあら様は、永遠の少女でもあるけれど、男を惑わす妖婦でもある。その境界を行き来する魅惑を引き出すには、あんまり肌の露出とかは、合いませんね…ま、きあら様の場合、お顔がお美しいから何でも似合って、わたくし創作意欲がわいちゃって、ほほほほ」

 

その言葉を聴くまでは、きあらは、大河原のことをただ優秀なデザイナーとだけ思っていたのだが、この「永遠の少女でもあるけれど男を惑わす妖婦でもある」発言に、ぴかり、と何かがひらめいた。その何か、とは「ああ、この人ってば、Queen のFreddie Mercury と同類だ」という思い。

そこで、わざとずけずけと言った。「ねえ、大河原さんってさぁ…もしかしたら…ゲイ? 」

きあらが顔を覗き込むと大河原の瞳に、一瞬ちらりと動揺が走り、軽く首を振りながら、ええ、お察しの通りです、と明瞭に言って、薄く笑った。「もともと、隠してませんしね…でも、気がついてくれる人の方が少ないのです」

「え? それって、女の人に言いよられるってこと? 」

「ち、違いますよ」好きな人に気がついてもらえない、ということです、と、長身を心持ち小さくして語る姿に、きあらは、なぜか胸がわくわくとしたのを覚えている。
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深良マユミ
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