対馬の闇Ⅴ

             コロナ特効薬

 

 311日(水)。ハン会長は、午前4時、釜山港から漁船ヤマネコ丸に乗り込み、午前5時半ごろに、鰐浦湾の北部に到着した。迎えのロールスロイスに乗り込んだハン会長は、さゆりの民宿の北側に一昨年建てられたヨーロッパ調の豪華な別荘に向かった。その日の夕刻、ハン会長は、1階会議室で神戸に運ぶブツの件でシュー社長と打ち合わせを行っていた。シュー社長は、今回のブツについて知らされてないことがあった。ハン会長は、怪訝な顔つきで話し始めた。「盗聴されているとは思わないが、今回のブツは、今までとは違う。現金と一緒に運ぶものがある」シュー社長は、身を乗り出した。「それは?」ハン会長は、小さな声で返事した。「それは、特効薬だ」

 

 シュー社長は、意味が分からなかった。「いったい、何の特効薬ですか?」ハン会長は、コロナ、とシュー社長の耳元でささやいた。「え、それを日本に。それを製薬会社に売り込み、儲けるということですね。さすが、会長」ハン会長は、顔を左右に振った。「そんなことはしない」シュー社長は、首をかしげた。「それじゃ、何のために?」ハン会長は、しばらく黙っていたが、話すことにした。「これは、Xからのプレゼンだ。中国の首脳陣は、すでに受け取っている。日本の首脳陣も恩恵に授かるということだ」シュー社長は、ますます、頭が混乱してきた。特効薬を開発したのであれば、世界各国に売れば、ぼろもうけになると思えたが、一部の首脳陣たちだけにプレゼンするとは、一体全体、どういうことか、さっぱりわからなかった。

 

 シュー社長は、眉間にしわを寄せ、話し始めた。「プレゼンするとは、人がいいですね。いったい、Xとは、何者ですか?ボロもうけできる絶好のチャンスなのに」ハン会長は、苦笑いしながら話し始めた。「君は、いつも、金儲けのことしか考えないんだな。いや、わしにもわからん。今回のコロナ攻撃は、金儲けが目的じゃない。アメリカ国家を救済するための施策らしい。世界中で約1000万人は、死ぬ。アメリカでは、数百万人の貧乏人や老人たちが死ぬ。これは、今後、アメリカの福祉費用の削減になる。そういうことだ。だから、1000万人以上死ぬまでは、特効薬は必要ない」この話では、ウイルス兵器による殺人と受け取られた。「ということは、コロナを使った殺人犯は、CIAですか?」

 

 ハン会長は、首をかしげて返事した。「その辺のところはわからんが、CIAが絡んでいるんじゃないのか。それより、わし自信が心配じゃ。老人で、糖尿病と来てる。コロナのターゲットだ。万が一、感染したら、イチコロだ」シュー社長は、不安げな表情で返事した。「ハン会長も、この特効薬を使えば、安心では?」ハン会長は、渋い顔で返事した。「それがじゃ。特効薬といっても、必ず助かるという保証がない。特に、病気持ちは、ヤバいらしい。だから、わしは、当分の間、ひきこもりになる」シュー社長は、マジな顔つきでうなずいた。「確かに、それは、賢明なお考えです。わたくしも、高血圧ですから、感染すると、ヤバいです。しばらく、ひきこもります。それにしても、ウイルス兵器を使うとは、アメリカも切羽詰まってるんですかね」

 

 ハン会長は、腕組みをして、ウ~~とうなずいた。「思うに、アメリカは、国家崩壊した。しばらくすれば、貧乏人の反乱が起きる。それを恐れて、ウイルスで、貧乏人を抹殺する気だろう。CIAも、ここまで、貧困国になるとは、予測していなかったに違いない。CIAが、国家救済において、最も効果的な施策を考えた時、貧乏人のウイルス病死が、最も即効性があり、経費の掛からない施策となったに違いない。病死であれば、政府の責任ではない」シュー社長は、小さくうなずき話し始めた。「いつの時代も、政府は、貧乏人の反乱をもっとも、恐れている。中国も、韓国も、朝鮮も、貧乏人が、急増し、不満が爆発寸前です。また、ヨーロッパでは、移民の貧乏人が、国家を脅かしています。それらの解決策として、CIAが先手を打ったということですね」

 

 ハン会長は、背もたれにのけぞり、天を見上げた。「そういうことだろう。おそらく、貧乏人、高齢者、病人は、かなり抹殺される。1億人以上、死ぬんじゃないか?」シュー社長は、1億人と聞いて、甲高い悲鳴を上げた。「1億人ですか?1000万人じゃ。そんなに、コロナは、恐ろしいんですか?」ハン会長は、小さくうなずき返事した。「いや、単なる憶測だ。ブツの特効薬も、本当に効果があるのか、疑問だ。コロナは、果たして、終息するのやら。終息しなければ、そうなるんじゃないか?」シュー社長は、背筋がぞっとした。確かに、終息するという保証はない。コロナは、新型で、全く解明されていない。開発した研究者たちは、完治させる特効薬を開発しているのか?万が一、特効薬を開発していても、販売しなければ、世界中の人が、毎年、死んでいく。1億人の死者は、大げさな話ではなくなる。

 

 

 

 

 ハン会長は、思い出したような表情で話し始めた。「言い忘れていた。今回は、現金は運ばない。例のブツだけだ。どうも、いやな予感がしてな。コロナで、警察も、ピリピリしている。シュー社長は、現金を運ばないのであれば、神戸まで行く必要はないのではないかと思えた。宅配便のほうが、怪しまれず、早いように思われた。「現金は、運ばないということは、特効薬だけですね。だったら、宅配便のほうが、無難ではないですか?」ハン会長は、ちょっと間をおいて話し始めた。「確かに、宅配便で運んでも、運べる大きさなんだが、万が一のことを考えて、直に運んでもらいたい。それと、しばらくは、コロナが収束するまでブツの取引を中止する、と伝えてもらいたい。中国、韓国のマフィアにも感染者が出た。日本のヤクザも注意したほうがいい」

 

 シュー社長は、コロナの感染拡大に疑問を持っていた。というのは、飛沫感染にしては、拡大が速いからだった。一気に、世界中に感染拡大してる。なぜ、そんなに拡大が速いのか?「会長、ちょっと、感染拡大が、速すぎませんか?中国は、ともかく、ヨーロッパ各地、アメリカ全土。一気に、感染拡大しています。なぜですかね?」ハン会長は、はっきりした情報を持っていなかったが、故意に感染させているとにらんでいた。「まったく、解せない感染拡大だ。おそらく、コロナウイルスをばらまいている奴がいるということだ。まあ、CIAの仕業であることは間違いない」シュー社長は、ゆっくりうなずいた。「そうとしか、考えられません。でも、こうまでして、老人、貧乏人を殺したいんですかね。まったく、人間のやることじゃない。マフィアのほうが、まだ人間らしい」

 

 ワハハ~~~、とハン会長が大声で笑い声をあげた。「それは、言えてるな~~。マフィアは、極悪非道だが、人間らしさがある。だが、CIAは、人間じゃない。だから、極悪非道を超越している。数千万、数億の人間を抹殺しようとしている。これは、人間が考えることじゃない」シュー社長は、もはや、アメリカは崩壊したと確信した。今後、各州は独立し、国家をつくるのではないかと思えた。金持ち連中は、金持ち国家を作り、貧乏人を奴隷のような労働者にしようとしている。すでに、金持ちは、金持ち特区を作っている。そうなると、やはり、貧乏人の反乱が考えられる。最近は、金持ち連中は、武器を買い込んでいるらしい。やはり、貧乏人の反乱が起きる前に、コロナ攻撃を仕掛けたと考えるのは、納得がいく。

 

 

 

 シュー社長は、不謹慎な質問をした。「会長、コロナのターゲットは、老人と貧乏人だけですか?まさか、マフィアってことは?」ハッとしたハン会長は、目をむき出した。「どういうことだ。マフィアだと。わしを殺そうとしてるというのか?」シュー社長は、弁解するように返事した。「いや、そういうわけでは。CIAは、マフィアを煙たがってますから。そういうこともあるかもと?」ハン会長は、小さくうなずいた。「そういわれれば、可能性もなくはない。麻薬、カジノ、それに加え、原発。CIAを利用して、かなり儲けさせてもらった。ちょっと、CIAに圧力をかけすぎたきらいがある。とにかく、老人は、感染防止に努めねば。感染すれば、天国に直行だからな」カジノと聞いて、シュー社長は、尋ねた。「北海道のIRは、延期になりそうですか?」

 

 ハン会長は、IRのことを懸念していた。「それじゃ。現状では、推進できん。とにかく、コロナの終息が先決だ。そうか、CIAのヤツ、わしらのIR計画をぶっ潰す気だな。コロナ程度の攻撃で、へこむハン・マフィアではないわ。わしは、不死身だ。今に見てろ」CIAは、ハン・マフィアの勢力を恐れているのではないか、とシュー社長は直感した。今や、原発開発を利用して、ヨーロッパ、日本、中近東、への勢力拡大が顕著になった。やはり、今回のコロナ攻撃は、ユーロ、元、の攻撃だけではなく、マフィアへの威嚇でもある。ハン会長が、感染しなければよいが、万が一、感染して、あの世に行くようなことにでもなったら、要を失ったマフィアは、一気に劣勢になる。「会長。その心意気です。しばらく、この別荘にひきこもって、筋トレなりやって、健康を維持されては、いかがですか?」

 

 ハン会長は、笑顔でうなずいた。今や、中国、韓国、ヨーロッパ、アメリカ、などは、コロナが蔓延している。まだ、日本のほうが安全。「それは、名案じゃ。対馬では、感染者は、出ておらんな。よし、コロナが、終息するまで、この別荘に引きこもるとするか」笑顔を作ったシュー社長は、返事した。「そうなさいませ。この別荘は、安全どころか、来客といえば、警官ぐらいです」ハン会長は、警官と聞いて、別荘への来客に不安を感じた。「いいか、これからは、来客は、一切、遮断しろ。警官であっても、別荘に入れるな。そして、別荘にいるものすべて、身体検査をやれ。熱があるもの、咳をするものは、別荘から、追い出せ。いいな」ちょっと、神経質のようだったが、老人の致死率を考えれば、ハン会長の気持ちにも納得がいった。

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
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