危険なビキニ

 安田は、やはりヤバイ仕事であることを直感した。だからといって、断っていいものか悩んだ。安田は、三島の固くなった表情を確認し、もう少し質問することにした。「高額な報酬から考えて、危険で重要な仕事であることは予測できる。なのに、なぜ、秀才でない俺たちのような凡人をモサドにしようとするのだ。俺たちよりもはるかに優秀な学生は他の大学にはたくさんいる。なぜだ?」ヤコブは、一瞬固まった。捨て駒に利用されるではないかと安田は不安がっている、とヤコブは直感した。

 

 「私は、二人を見込んでスカウトしている。本部にもスカウトする根拠を報告した。安田は、カリスマ性があり、弁舌に優れている。三島は、実直で、剣道チャンプだ。モサドは、武器を使わないインテリエリート兵士なのです。使うのは、頭脳と肉体だけだ。二人のような知能の低い学生をスカウトするのは、今回が初めてだが、仏教国の日本においては、知能よりカリスマ性を重視すべきと判断した」最もな意見のようにも受け取れたが、知能の低いエージェントなど聞いたことがない。モサドのエージェントは、語学に秀でていて、知能が高いと聞いていた。現に、ヤコブもイサクも語学堪能の天才だ。なのに、彼らからすればバカといえる俺たちをモサドにしようとしている。不思議に思わないほうがおかしい。

 

 安田は、念をすように強い口調で質問した。「はっきり言って、他校の秀才たちと比べれば、俺たちはバカだ。こんな俺たちをモサドにして本当にいいのか?俺たちのような低能にモサドが務まるのか?英語もろくにしゃべれないんだぞ。こんな俺たちなんだ。それでも、俺たちをモサドに誘うのか?俺たちが仕事で失敗すれば、ヤコブの責任になるんじゃないのか。それでも、スカウトする気か?」ヤコブは、小さく何度もうなずきながら、マジな顔つきで話に聞き入っていた。すでに、関東と関西の優秀な学生が、スカウト候補に挙がっていた。それに加え、ヤコブは二人をスカウト候補に入れた。これは、ヤコブもかなり悩んだ決断だった。

 

 

 


 ヤコブは、二人の表情を交互に見て話し始めた。「実を言うと、二人の勧誘にはかなり悩んだ。だが、私の新しい試みが正しかったことを証明したい。短期の出張はあると思うが、二人には、日本国内での仕事に限定するつもりだ。このことは、本部の承諾をとっている。当然、海外での仕事を担当させるために、知能の高い学生をほかにスカウトする。二人には、イスラエルの研究者と日本の研究者の仲介をやってもらいたい。また、彼らの身辺警護と監視に当たってもらいたい。AI兵器の研究は、イスラエル地下組織が行う。したがって、ベンチャー企業の表の顔として、対外的仕事をやってもらう。少しは、納得いただけたかな」

 

 三島は、うなずきながら安田の顔を覗き見た。安田は、日本国内と聞かされ、ホッとした。単身赴任を心配していたからだ。安田は、念を押した。「俺らは、日本国内の仕事に専念するんだな。だったら、英語が話せない俺達でも、できなくもないような気もする」安田は、右横の三島の顔をちらっと覗いた。なんとなく自分たちの仕事がわかり始めたが、有能なモサドになるためのトレーニングはあるはずだと思った。「まあ、俺たちは国内の仕事をすればいいことはわかったが、一人前のモサドになるには、いろんな訓練を受けなければならないんだろうな。俺たちに、やれるかどうか?」

 

 ヤコブは、即座に返事した。「当然です。二人の将来性を見込んで、スカウトしたのです。日本国内だからといって、英語ができなくていいとは言っていません。英語の特訓は課せられます。また、武術の特訓も課せられます。ボクシングとレスリングは必須です。これは、自分を守るためのものです。また、拷問にも耐えうる精神力をつけるためです。二人を同時にスカウトしたのは、お互い助け合って身を守ってほしいからです。できれば、武術にたけた三島は、安田を守ってほしい」拷問と聞いたとたん安田の顔が引きつった。だが、いまさら拷問が怖くなったから断る、とは言い辛かった。

 

 

 


 拷問と聞き少し怖気づいた安田は、頭を掻きながら弱音を吐いた。「だよな。つまり、俺たちは危険極まりない仕事を任されるということだな。俺たちにできるだろうか?英語は全く話せないし。三島は、剣道チャンプだからボクシングもレスリングもやれるだろうが、俺ができるスポーツといえば、ゴルフぐらいだ。いや~~、全く自信がない」安田は顔を左右に素早く振ると意見を求めるような眼差しを三島に向けた。ヤコブの話を聞いていると三島も自信がなくなっていった。剣道バカの三島は、全く英語が苦手だった。英語ができなかったら、即刻クビになるのではないかと思い、尋ねた。「俺は、剣道バカで、勉強はできない。英語は特に苦手だ。英語ができないと、クビになるのか?」

 

 ヤコブは、クスクスと小さな笑い声をあげ、笑顔を作り返事した。「二人とも思ったより気が小さいんだな~~。ヤマト民族は肝っ玉が小さいのか?英語ができないからといって、クビにはならない。だが、できるまで特訓される。英語のメールが読めないんじゃ、仕事はできない。英語も武術も拷問並みの特訓を覚悟してもらう。命がかかっているからな。ヤマト民族なんだから、耐えられるだろう。二人とも、覚悟はできたかな」二人は、顔を見合わせて、小さくうなずいた。「ところで、モサドの契約は、大学卒業後でいいのか?」ヤコブはうなずいた。「モサドの契約は大学卒業後となるが、契約の前には、アブラハム局長の面接がある。そして、局長のOKが出れば、契約締結となる。できれば、それまでに英会話ぐらいは、やってもらいたいものだ」

 

 契約まであと一年半の猶予がある。安田は、気が変われば、断っていいものか確認することにした。「いまさら、聞くのも何なのだが。今のところ、モサドになる覚悟ができた。でも、卒業までに自信を失った場合、その時点でモサドを断るってことはできるのか?」ヤコブは、大きくうなずき返事した。「当然、モサドを断ることはできる。また、我々も、二人を観察させていただき、不適格と判断した場合、不採用とする。今のところ、不採用にする気はないがね。私は、二人の活躍を期待している。ぜひ、前向きに考えてほしい。ほかに、質問は?」

 


  三島は特になかったが、安田は、結婚のことを確認しておくことにした。「国外の仕事はないということで、ホッとしているんだが、俺は、卒業後、すぐに結婚する予定だ。そのことに関しては、問題ないのか?」ヤコブは、即座に返事した。「結婚に関する条件はない。だが、たとえ結婚相手であっても、モサドに関する情報は、一切話してはならない。そのことは、了解してると思うが」安田は、一瞬はっとした。すでに、リノにはモサドに関する話をしてしまった。このことを話しておくべきか悩んだが、後になって責められるより、今、話しておくべきだと勇気を振り絞った。「ヤコブ、実を言うと、婚約者にモサドになるということを話してしまった。もう、俺は失格か?」

 

 一瞬ヤコブの顔がゆがんだが、笑顔で返事した。「いや、モサドに関する情報を流したわけでない。今後は、たとえ婚約者でも、モサドについては話さないように」安田はほっとした。そして、今後のことを確認した。「俺たちは、モサドの決意を固めた。卒業までに、英語会話のほかに何かやるべきことはあるか?」ヤコブは、満足そうな笑顔で答えた。「二人の決意を聞かせてもらっただけで我々は大きな収穫を得た。モサドの特訓は、正式な契約が交わされた後に行われる。大切なことは、健康管理と使命感だ。日本とイスラエルのために身をささげる心だ。二人なら、必ず使命を遂行できる。同志、力を合わせて、戦おうじゃないか。今後、何か質問があれば、いつでも尋ねてくれ」

 

 安田は、三島に振り向きうなずいた。三島は、安田から聞いていた報酬のことが気になっていた。「ヤコブ、まだモサドになっていないのに、聞くのはおこがましいようだが、報酬の件を聞かせてほしい」三島には報酬の件は話していないことに気づき改めて話すことにした。「当然の質問だ。安田には話したと思うが、報酬は年俸10万ドルだ。年4回に分けて日本円で支払われる。当然、モサドの報酬は、表に出すことができない。だから、現金手渡しとなる。表向きはベンチャー企業の従業員ということになるから、各自の口座には給料分しか振り込まれない。本部命令の業務遂行における諸経費は、別途、請求次第支払われる」

 

 

 

 

 

 


サーファーヒカル
作家:春日信彦
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