女子会

  やはり、安田には事の重大さが理解できていないと思えた。リノさんが、最も望んでいることは、一刻も早く結婚して、旅館を一緒に切り盛りしてくれること。また、大学なんかは、リノさんにとってはどうでもいいこと。そのことが、安田には理解できていないと思えた。「確かに、先輩にとっては、大学卒業も学生運動も、大切なことでしょう。でも、リノさんの身にもなってみてはどうでしょう。リノさんにとっては、先輩だけが、唯一の頼れる人なんじゃないでしょうか。僕は、リノさんのために、一刻も早く、結婚すべきだと思います」

 

 安田は、鳥羽に相談したことをつくづく後悔した。セックス拷問の解決方法は、中退して、結婚ということに行きついた。鳥羽の意見は、リノの気持ちを考えただけの意見でしかなかった。そもそも、鳥羽は非現実的な恋愛観を持っている。こんな男に一般学生の気持ちを考慮した意見が出せるはずがなかった。鳥羽は、今でも、ゆう子姫に一生お仕えするといっているような男だった。これ以上、鳥羽に相談しても、今以上のいい解決方法は出てこないと判断したが、親友としての意見を述べてくれたことに感謝して、一応は鳥羽の無謀な意見を尊重することにした。

 

 「鳥羽の気持ちは、よくわかった。とにかく、信用を取り戻す努力をする。リノは、とにかく、疑い深い。もう一度、結婚時期について、リノと話し合ってみる。それでも、リノが納得いかなければ、その時、鳥羽の意見を考える。いい親友をもって、俺は、幸せだ」鳥羽は、自分の意見を受け入れてくれたと思い、有頂天になった。「やっぱ、先輩です。僕も、一生、ゆう子姫にお仕えする身です。お互い、お仕えいたしましょう」能天気な鳥羽と一緒にされて面食らったが、うなずくことにした。

 

 「まあ、お互い、いい女性に巡り合えたということで、幸運だったな」鳥羽は、ますます、安田が好きになった。「あ、そうです。お二人の話し合いには、僕も参加いたしましょう。先輩が言いにくいことがあれば、僕が代弁します。いつ、話し合われますか?」これ以上鳥羽にまとわりつかれては、ややこしくなるようで、話を替えることにした。「まあ、その時は、知らせる。それより、今でも、ゆう子を追いかけているのか。いい加減にあきらめたほうがいいんじゃないか?」

 「先輩、何度も言っているじゃないですか。僕は、ゆう子姫を追いかけているんじゃないんです。ストーカーじゃないんです。お仕えする下僕なんです。ゆう子姫のために一生ご奉仕申し上げるんです。先輩のようなよこしまな愛じゃないんです。これぞ、純愛というやつです。先輩には、わからないでしょうが」やはり病気は治っていないと思い、いつものようにお説教するのはやめた。「好きにやってくれ。俺は、凡人だし。よこしまな愛しかないからな」

 

 鳥羽は、なんだか気分がハイになり、一刻も早く二人を結婚させたくなっていた。「先輩、明日にでも、話し合われたらいかがですか?学生結婚というのは、結構よく聞きますよ。披露宴で、先輩を絶賛した世界一の親友スピーチをしますよ。そう、来月のジューンブライトがいいんじゃないですか」これ以上、下僕病が進行したら、新婚旅行までついてくると言い出すような気がした。「おい、待て待て、そう、焦るなよ。鳥羽の気持ちは、十分わかった。とにかく、明日はダメだ」

 

 ダメだと言われると理由を聞きらくなってしまった。「明日はダメって、どういうことですか?明後日ならいいんですか?」安田は、事情を話すことにした。「詳しいことはわからんが、明日の土曜日に女子会をするらしい。それで、俺は追い出されたんだ。俺は、邪魔ということだな。ということで、機会を見て、学生結婚のことは話してみるさ。学生結婚というのも、いいかも」

 

 

 

               名案

 

 女子会と聞いて鳥羽の瞳がキラキラと輝いた。「女子会ですか。それならそれと、教えてくれればよかったのに。女子会っていうことは、ゆう子姫も参加するんでしょ?ゆう子姫には、1年以上も会っていなんです。僕も女子会に参加します。場所はどこですか?」鳥羽の頭は、正真正銘の能天気だと思った。「おい、女子会ってのは、男子禁制なんだ。そんなこともわからんのか。お前は、バカか」安田こそ全くわかっていないと思い、鳥羽は、血相を変えて反論した。

 

 「バカとは、何ですか。参加するっていうのは、女子会の給仕をやるってことです。ボーイとしてだったら、いいんじゃないんですか。ガールズトークの邪魔はしないんだから」安田には、鳥羽の思考回路が全く分からなくなった。「女子会のボーイをやるっていうが、ブサイクなボーイは結構ですって、奴らが断ればどうなるんだ。鳥羽にうろうろされたら、不愉快に決まっている。きっと、断られるさ」

 

 完璧にへこまされた鳥羽は、さすがに反論ができなかった。万が一、ゆう子姫に拒絶されたら、ショックのあまり気絶するかもしれないと思った。「そうですか。ブサイクは、およびでないですか。でもな~~、お会い申し上げたのです、ゆう子姫に。一目でいいから。願いは、かなわないものでしょうか」今にも泣きだしそうな顔でうつむいてしまった。ちょっと言い過ぎたと思った安田は、覗き見るぐらいはできると励ますことにした。

 

 「まあ、ちょっと言い過ぎた。許せ。女子会は、旅館でやるらしい。ちょっとぐらいだったら、覗けるんじゃないか。風呂上がりの浴衣姿とか」浴衣姿を思い浮かべた鳥羽の頭に妄想が一気に膨らんだ。「日帰りってことはないから、一泊するってことか。ゆう子姫の浴衣姿ですか。夢のような話ですね。湯船に輝くゆう子姫の美肌。ゆう子姫の小さなおみ足をお洗い申し上げたいな~~」あきれ返った安田は、夢心地の鳥羽の顔を見て言った。「まあ~~そういうことだ。鳥羽も、明日、温泉につかったらどうだ。ゆう子と会えるかも」

 

 

 その気になってしまった鳥羽は、予定を立て始めた。「それでは、明日の午後、3時にチェックイン。部屋は、先輩の汚い住み込み部屋」自分勝手な予定にむかついた安田は、お客として泊まるように営業した。「おい、旅館にやってくるのに、俺の部屋とはどういう了見だ。ちゃんと、お客として部屋をとれよ。こっちは、商売でやってるんだ。親友だからといって、タダで泊めてやるようなお人よしじゃない」

 

 安田の商売人口調に鳥羽は、目を丸くした。「もう、若旦那ってわけですか。そいじゃ、一番安い部屋にしてください。料理も最低でいいです。今、金ないんすよ。安部教授の助手をやってるんですけど、もらえるのはスズメの涙なんです。しかも、医学部ってのは、バイトの時間がないくらい、大変なんです」安田は、鳥羽もバイトに明け暮れている学生と同じように考えていた。金欠病と聞いて、気の毒になった。「そうか、鳥羽は、医学部だったよな。バイトは、御法度か。まあ、今回だけは、大目に見てやるか。俺の部屋に泊まれ」

 

 ガッツポーズをとった鳥羽は、笑顔で感謝の言葉を述べた。「さすが、若旦那。太っ腹でいらっしゃる。ところで、女子会にどんなメンバーが集まるんでしょうかね。ワクワクしますね」リノがうかつにも口にしたちょっと気になるメンバーを話すことにした。「ちょっと気になるメンバーがいるんだ。なんと校長が来るらしい」鳥羽は、校長といわれてもピンとこなかった。「校長って、高校のですか?」

 

 安田は、顔を左右に振ると腕組みをして首をかしげた。「それがだな~~。かの有名な篠田校長だ」鳥羽は、糸島中学の卒業生でなかったため篠田校長を知らなかった。「篠田校長って、どこの高校ですか?」鳥羽は姫島中学校卒業であったことを思い出し、篠田校長のことを説明することにした。「鳥羽は、姫島中だったな。篠田校長は、糸島中学校の校長だ。美人で天才。エリート教育で超有名校に合格させた実績ある。陰では、鬼校長と呼ばれているがな」

 

 

春日信彦
作家:春日信彦
女子会
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