女子会

 その気になってしまった鳥羽は、予定を立て始めた。「それでは、明日の午後、3時にチェックイン。部屋は、先輩の汚い住み込み部屋」自分勝手な予定にむかついた安田は、お客として泊まるように営業した。「おい、旅館にやってくるのに、俺の部屋とはどういう了見だ。ちゃんと、お客として部屋をとれよ。こっちは、商売でやってるんだ。親友だからといって、タダで泊めてやるようなお人よしじゃない」

 

 安田の商売人口調に鳥羽は、目を丸くした。「もう、若旦那ってわけですか。そいじゃ、一番安い部屋にしてください。料理も最低でいいです。今、金ないんすよ。安部教授の助手をやってるんですけど、もらえるのはスズメの涙なんです。しかも、医学部ってのは、バイトの時間がないくらい、大変なんです」安田は、鳥羽もバイトに明け暮れている学生と同じように考えていた。金欠病と聞いて、気の毒になった。「そうか、鳥羽は、医学部だったよな。バイトは、御法度か。まあ、今回だけは、大目に見てやるか。俺の部屋に泊まれ」

 

 ガッツポーズをとった鳥羽は、笑顔で感謝の言葉を述べた。「さすが、若旦那。太っ腹でいらっしゃる。ところで、女子会にどんなメンバーが集まるんでしょうかね。ワクワクしますね」リノがうかつにも口にしたちょっと気になるメンバーを話すことにした。「ちょっと気になるメンバーがいるんだ。なんと校長が来るらしい」鳥羽は、校長といわれてもピンとこなかった。「校長って、高校のですか?」

 

 安田は、顔を左右に振ると腕組みをして首をかしげた。「それがだな~~。かの有名な篠田校長だ」鳥羽は、糸島中学の卒業生でなかったため篠田校長を知らなかった。「篠田校長って、どこの高校ですか?」鳥羽は姫島中学校卒業であったことを思い出し、篠田校長のことを説明することにした。「鳥羽は、姫島中だったな。篠田校長は、糸島中学校の校長だ。美人で天才。エリート教育で超有名校に合格させた実績ある。陰では、鬼校長と呼ばれているがな」

 

 

 美人で天才と聞いて校長に興味がわいてきた。「その美人校長がやってくるんですね。ますますワクワクしますね。でも、女子会に校長ってのは、奇妙ですね。校長が招集したんでしょうか?」安田もなんとなく奇妙に感じていた。自分を追い出したのも何か聞かれたくないことがあるからではないかと勘繰った。「俺も、ちょっと引っかかるんだ。極秘の会合だったら、盗み聞きしてみたくなるのが心情ってもんだよな。この稼ぎ時に俺を休ませるとは、がめついリノにしては、ちょっと変だ」

 

 鳥羽も今回の女子会の実体に興味がわいてきた。校長は、いったいどんな話をするのだろうかと考え始めると盗み聞ぎしたくなった。「先輩、今回の女子会は、きっと何かありますよ。先輩を追い出し、校長がやってくる。絶対、何かあります。クンクンにおいます。どうにかして、盗聴できませんかね~」安田も盗聴したくなった。だが、どこの部屋で女子会するかはわからない。盗聴するいい方法はないか考え始めた。

 

 「確かに、聞いてみたいよな。校長とゆう子は間違いなくやってくるはずだ。でも、盗聴するって言っても、どの部屋かわからないからな~~。何かいい方法は、ないものか」鳥羽も盗聴方法を考え始めた。ニャ~ニャ~という猫の鳴き声が、静かな沈黙に割り込んできた。ポンと手を打った鳥羽は、ニコッと笑顔を作り安田を見つめた。名案が思い付いたと察した安田もニコッと笑顔を送り返した。

 

 鳥羽は身を乗り出して話し始めた。「どの部屋で密会しても盗聴できる方法が見つかりましたよ、先輩。きっとうまくいきます。マリリンにお願いするのです。リノさんのマリリンに」マリリンとはリノが飼っている愛猫の三毛猫だった。安田には、意味がさっぱり分からなかった。「ネコに盗聴してもらうっていうのか?ネコには、日本語はわかるまい。夏目漱石のネコじゃないんだから。俺は、マジに考えてるんだ。天才鳥羽の頭も大したことはないな~~」

 

 

 鳥羽は、名案の説明をすることにした。「先輩、確かに盗聴をマリリンに頼むんですが、マリリンに話を聞いてもらうんじゃないんです。マリリンに盗聴器をつけるのです。マリリンだったら、女子会の部屋で寝ころんでいても怪しまれなくてもすむでしょ」確かに名案だと思ったが、高性能の盗聴器などというアイテムは、007の話であって、そんなものがないことは明白だった。「まあ、名案かもしれないが、盗聴器を持っているのか?俺は、そんなもの持ってないぞ」

 

 鳥羽も盗聴器は持っていなかった。でも、超小型のボイスレコーダーを持っていた。それは、授業を録音するために使っていた。「僕も盗聴器は持っていません。でも、超小型の高性能ボイスレコーダーを持っているんです。1回の充電で5時間録音できます。これだけ録音できれば、十分じゃないですか。明日、早速、マリリンの首輪に取り付けましょう」

 

 安田は、大きくうなずいた。「ボイスレコーダーか。それはいい。マリリンは、リノのそばに行きたがる。かなり期待できそうだな。密談は、みんなが寝静まった時間帯だろう。ということは、12時前後の真夜中」鳥羽も同じようなことを考えていた。「離れに部屋をとったのも誰にも聞かれたくないからでしょう。僕も、密談は真夜中だと思います。ところで、ネコは真夜中でも活動してくれますかね~~」

 

 安田は、しかめっ面になって首をかしげた。いつもエサをやっているのは、リノだった。しかも、マリリンは、夜の8時にはリノのベッドで寝ていた。「そうだよな。ネコは、真夜中には活動しない。きっと寝ているに違いない。困ったな~~。マリリンを起こすいい方法はないものか」鳥羽も真夜中にネコは活動しないと思えた。どうやってマリリンを起こして、リノのそばに行かせるかが難問のように思えた。

 

                女子会

 

 55日(土)子供の日、若女将リノは、連日、てんてこまいでくたくたになっていたが、うれしい悲鳴を上げていた。縁結びの温泉として、さしはら温泉旅館は、国際的に有名になっていた。ゴールデンウイークを利用した国内の観光客はもとより、海外からも多くの観光客が九州に訪れ、糸島の温泉街もにぎわっていた。佐賀の有田陶器市には約120万人、福岡のドンタクには、約200万人の観光客が押し寄せていた。

 

 校長の指示を受けていたリノは、女子会のために最高級の離れの家族部屋を確保していた。招集されたメンバーは、ゆう子、リノ、横山、北原、峰岸、小島の6名だった。集合時間は、午後5時と指定されていた。リノは、430分になると仲間を迎えるために南別館の玄関に向かった。445分、玄関前に到着したのは、横山、北原、峰岸、ゆう子を乗せたタクシーだった。彼らは、ゆう子の家に集合し、4人乗り合わせてジャンボタクシーでやってきた。450分、校長は、愛車のポルシェボクスターに秘書の小島を乗せてやってきた。

 

 彼らは南別館から通じる離れの一戸建(2L)高級家族部屋に案内された。このような部屋は、現在5つあり、人気があるのか3か月前にはすべて予約が完了された。利用するお客は、老夫婦、謎めいたカップル、代議士、会社役員などの常連客だった。ただし、一泊二日、一人5万円、(3歳以下は一人2万円)と割高となっていた。ゴールデンウイークには、すでに4部屋が予約がなされ、残り一部屋は常連客の老夫婦ために確保されていた。そのため、校長には、リーズナブルな部屋を勧めたが、校長は、必ず一戸建の部屋をとるように指示してきた。

 

 困り果てていたリノだったが、偶然にも一件のキャンセルがあり、一戸建の離れの部屋を確保できた。別荘のような高級な部屋に案内されたゆう子たちは目を丸くしていた。校長は、ここであれば、だれからも盗聴されることはないと安心していた。リビングに集まった6人に早速指示を出した。「夕食は7時から。会議は、そのあとで。それまでは、自由にくつろいで。今回は、すべて、私のおごりだから、好きなだけ、食べて飲んで歌っていいわよ。デザートのメロンもマンゴーもスウィーツも食べ放題よ。今日は、おもいっきし、どんちゃん騒ぎしましょう。リノには、迷惑かけたわね」

 

春日信彦
作家:春日信彦
女子会
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