小説の未来(15)

  国家公務員や地方公務員は、国家と国民のために働いています。税金収入の分配を受け取る彼らも、企業収入の分配を受け取る社員も、同じ国家の労働者なのです。彼らが公務員だからといって、彼らの存在をもって国家とは言えないのです。というのも、国家は国民によって成り立っているにもかかわらず、国民の意思と乖離(かいり)した国家意思と国民をコントロールする国家権力を持っているからなのです。

 

 そこで、声高に言われることでしょう。国家権力の背景には多くの兵隊からなる軍隊がある。軍隊を発動させる大統領や首相がいる。彼らは、まさに実体だと。でも、やはり、彼ら、一定の役割を遂行する人間であって、国家の実体ではないのです。

 

 先ほど述べたように実体としてあるのは、一人一人の人間なのです。どんなに人間が集まっても、人間でしかないのです。ところが、大脳新皮質の機能から生産された言語が、魔法のような働きをして、人間集団を国家という非生物的で凶暴な亡霊に変身させてしまったのです。

 

                                  国家の証明

 

 国家とは何か?これは、人間とは何かを問うことにもなります。森村氏の小説に「人間の証明」という作品があります。秀才の彼は、彼なりの条件設定を行い、彼なりの手法で人間を証明されました。この歴史に残る証明でさも、無限にある証明のうちの一つにしかすぎません。

 

 一人の人間を生物学的に証明するのは、現在の科学をもってすれば可能かもしれません。でも、人類は言語を作り出し、さらに国民をコントロールする国家までも作り上げてしまいました。この段階では、人間を証明するには、国家をも証明しなくてはなりません。

 

 人間国家証明する場合、無限の条件設定が考えられます。実体のない国家を果たして証明できるのでしょうか?国家は、生物である人間の組織集団ですが、出来上がった組織集団は、生物学的な人間集団ではないのです。だから、国家を証明するには、もはや、言語を使って証明する以外ないと思われます

  当然、国家を証明するには、条件を明確にしなければなりません。でも、国家の条件とは、いかなるものでしょうか?選挙があって、国会議員がいて、公務員がいれば、国家なのでしょうか?それらは、単に人々を役割によって区別したにすぎません。  

 

 国家の歴史から国家の実体を解明しようと研究なされている学者が多々いらっしゃいますが、国家は、人類の良心を無視するかのように、日々人類に殺戮(さつりく)を強要し続けているのです。ふと思うのです。「人間と国家の証明」の問題は、殺戮を繰り返す人類への天誅(てんちゅう)ではないかと

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(15)
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