芸術の監獄 ベラ・バルトーク

芸術の監獄 ベラ・バルトーク120の有料書籍です。
書籍を購入することで全てのページを読めるようになります。
芸術の監獄 ベラ・バルトークを購入

芸術の監獄 ベラ・バルトーク( 2 / 3 )

音自体に意味がないのに、音楽に意味があると見なすのは論理の破綻であろう。われわれが音楽を聴くとき、われわれが期待しているのは「意味」ではなく「印象」だとすれば、すっきりするのではないだろうか。そう、「バルトークは何が言いたいのだ!? 」と思うから困るのだ。

 

「ビートルズは愛を歌っている。ボブ・ディランは孤独を歌っている。バッハは神を歌っている」という文脈をバルトークに援用することはできない。私はやっと彼の楽曲の本質が分かった。彼の音楽は「装飾」なのだ。物語や神話の力を強調するための…映像のシニフィアンを見る者に分からせるための… なぜこんな結論に至ったかというと。

 

「マルコヴイッチの穴」という映画をご存知だろうか。面白おかしいのに、難解という、曲芸のような味わいの映画だった。あれの冒頭の、人形劇のシーンの音楽がバルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」だ。なぜに人形劇かというと、人間が他人の脳みそに入りこんで、その人物になりきる(というか、なり変わる)ことが映画のテーマだからだ。他者の肉体をコントロールする欲望。それは誰もが持っているが、タブーだから意識の下に押し込めている。そのことを、映像作者は人形(操っている主人公の男性とうり二つなんです)と、人形師で語らせている。


bartk1.jpg


写真は、残念ながら「マルコヴィッチの穴」ともバルトークとも無関係な横浜の風景です。お世話になっている女流写真家長澤直子さんに綺麗な写真を提供して頂きました。窓に紅葉が映っているのに注目。



このぎくしゃくとしながら性急なお人形のダンスに、この曲の「アレグロ」はおそろしく合っている。たたみかける打楽器、なめらかからざらざらまで、千変万化の弦、ぞっとするほど早くなるテンポから、ちゃらちゃらと下ってくる

ピアノの鍵盤音が快い。音楽自体も良いが、「人形」が熱狂的に踊ることによって倒錯的な気分が嫌でも伝わるのだ。文で伝えると、この酩酊が巧く表現できないのが残念なくらい。

 

私の「バルトーク=装飾品」仮説は、ある本によっても補強されることになった。「コリン・ウィルソン音楽を語る」(1989年富山房刊)という本です。

「音楽を語る」というよりは「音楽家について感想と印象を語りたおしました」といった内容なのだが、文中でウィルソンはバルトークの作品についてこう述べている。「われわれは、たとえば「ヴァイオリン協奏曲」の音響と華々しさに感銘を受けることは受けても、それが終わったとき、全体として何を感じるべきなのか確信が持てないのだ。」別の箇所ではこうも言っている。「バルトークの作品は、人間バルトークに関してほとんど語らない。」



芸術の監獄 ベラ・バルトーク120の有料書籍です。
書籍を購入することで全てのページを読めるようになります。
芸術の監獄 ベラ・バルトークを購入
深良マユミ
芸術の監獄 ベラ・バルトーク
0
  • 120円
  • 購入

2 / 3