天の川

校長は、ニコッと笑顔を作り、うなずいた。「そうよ、それでいいの。誰だって、弱いものなの。自分を責めずに、チャレンジしなさい。与えられた道なんてないのよ、道なんて、歩いた後にできるの。手探りでいいの。転ぶこともあるし、傷だってできる、泣きたい時だってある、もう歩きたくないって思う時もある、でも、それでも、歩くの。歩くことが、それが、人生よ。第一歩を踏み出しなさい」

 

校長は、ゆう子が口に出さなくとも、心の奥底に消すことができない悩みをちゃんと知っていた。それは、天国に行ってしまった勇樹への恋心との葛藤だった。「ゆう子、少しは、元気が出た?誰だって、弱いのよ。先生も同じ。強がっているだけ。何回も失恋して、結婚も失敗して、心は傷だらけ。でも、生きてる限り、歩き続けなくっちゃ。ゆう子のひこ星も、きっと、ゆう子が歩き出すことを願っていると思う」

 

そう言い終えた校長は、そっと席を立ち、窓際から掛け声を出し合い練習に励む野球部員たちを見つめた。“ひこ星”ゆう子は、ハッとした。どうして、そんなことを。突然、脳裏のスクリーンに夜空に光り輝く天の川が現れた。そして、西の夜空を懸命に走っているひこ星が、東の夜空の寂しそうなゆう子姫に声をかけた。「しょげた顔は、似合わんばい。さあ、走らんか、なんばしよっとか」

春日信彦
作家:春日信彦
天の川
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