小説「一休さんと野盗弥太」 (書き下ろし新作)

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時は、少し、遡る。

 弥太の子分だった吾作は百姓の家の長男だったが、十歳の時、ひどい旱魃が続いて、米が取れず、おまけに流行り病で、親兄弟が全滅したので、年貢の取立ての前に、逃亡した。親兄弟が皆死んだ中で、生き延びたのだから、もともと身体が強かったのだろう、山の中をさ迷い、木の実や草や虫まで食い、夜は、木の洞などで、夜露をしのいで眠っていたのだが、野垂れ死にはしなかった。しかし、冬が近づくにつれて、さすがに、体が弱り、動けなくなっているところを、弥太に拾われた。
弥太は、最初、吾作を襲って、金品を奪おうと思ったらしい。しかし、すぐに、ただ野垂れ死にしかかっている子供であると見て、打ち捨てておくかどうか、しばらく思案したが、結局、吾作を抱きかかえ、洞につれてかえり、粥を食わせたり、少し元気になると肉を食わせたりして、面倒を見た。その少し前に、弥太を拾って育ててくれた親方を瘧で亡くしていたので、何か感じるところがあったのかもしれない。弥太は、鬼神のような激しい男だったのだが、その時ばかりは、少々仏心が出たのだ。
 吾作が元気になると、今度は、子分として、獲物のとり方や、剣の使い方など、いろいろと仕込み、一緒に狩りに行ったり、時には、旅人を襲う手伝いをさせたりした。
 つまり、吾作にとって、弥太は、恩人だった。
 そうして、犬の仔のように、弥太にくっついて、5年程が過ぎて、吾作は、逞しく、恐ろしい野盗になっていった。
「いつまでも、吾作では、百姓みたいじゃのう、そうじゃ、お前は、今日から小弥太と名乗れ。」ある日、弥太にそう言われたので、吾作は、小弥太と名乗るようになった。

 小弥太が十六になると、何か、小弥太にもよくわからないが、心中に変化が起こってきた。弥太が小弥太に発する何気ない言葉ひとつひとつに、何かひどく腹が立つ気がしてきたのだ。弥太は、命の恩人で、野盗の師匠でもある。逆らう気など、微塵もないはずだったのだが、なぜか、弥太に命令されると、心のうちに、むくむくと反抗心が湧いてきて、自分でも、時に抑えがたい衝動を感じてしまう。
 そんなこともあって、小弥太は、弥太から少し距離を置き、なるべく、別行動をとるようになっていった。弥太は、なぜか、それについて、何も文句を言わなかった。
 
 一人で獲物を探して、山の中をさ迷っていると、弥太は、川のほとりで、一人の娘を見つけた。娘は、年の頃、十六、七歳。浅黄色の着物に茜色の帯。あまり日に焼けていなかったので百姓の娘ではなさそうだった。では、どんな素性の娘だ?という疑問が一瞬よぎったが、それよりもなによりも、小弥太の頭の中は、興奮で破裂しそうだった。
娘は、水浴びをしようと、あたりを伺いながら、着物を一枚一枚脱いでいった。小弥太は、茂みの中に身を潜めて、その様子を凝視していた。自分の意思ではどうしようもない。目をそらそうとしても、どうしても目をそらすことができなかった。
 娘は、やがて、一糸まとわぬ姿になり、池の中に入っていった。最初、足先だけを水に浸けて、水温を確かめると、一歩一歩水の中に身を進めた。足を動かすたびに動く、丸い尻の動きに、小弥太は、激しいものを感じた。「なぜ、あんなに尻が柔らかそうなのだ、なぜ、あんなに肌が白いのだ!」小弥太は、茂みの中で身悶えした。息が苦しくなった。


 娘は、池の水に腰まで浸かると、こちらを振り向いて、女特有のゆっくりと仕草で、身体中をなで始めた。形のよい、張りのある乳房が揺れた。まるで、それは、みずみずしい果実のようだった。娘は、縛っていた髪も解き、毛先を水に浸けて、両手で挟むようにして、くわえていた櫛を丹念に使った。黒髪と白い肌、赤い唇、そして桃色の乳首。この世のものではない、と小弥太は思った。
 小半刻も、そうしていたであろうか、娘は、やがて身体の手入れを終えて、腰を上げた。
 池の水面から、娘の女陰の翳りが現れた時、とうとう小弥太は弾けた。
 小弥太は、無我夢中で駆けて、池の中に走り込み、裸の娘の肩をつかんだ。娘は、短い悲鳴を上げ、身をよじって抵抗したが、身体が大きく逞しい小弥太にかなう訳もなく、その太い腕の中で、震えるだけだった。小弥太は、無理やり、裸の娘を抱え上げて、池から走り出ると、草むらまで駆けていって、娘を地面にドサリと降ろした。拍子に、娘の白い肌は、黒々とした土にまみれた。むせるような草の匂いのほかに、何か、衝動を招く匂いがした。
 小弥太は、憑かれたように、一層、息を荒くすると、自分の衣服を剥ぎ取るようにして脱ぎ、娘の上に覆いかぶさった。娘は、また、甲高い悲鳴を上げた。その声が、小弥太の興奮を一層に高めた。小弥太は、乱暴に、娘の乳房を揉みしだいた。力まかせにつかんだので、白い乳房は、赤く血の色が滲み、痛々しく潰れた。小弥太は、娘の乳房をつかみながら、娘の首や頬、当たりかまわず、口をつけ、吸い、嘗め回した。先ほど感じたなまめかしい匂いが一層強く匂って、それに、また誘発された。ひとしきり、娘の身体を一心にまさぐっていたが、女を知らぬ悲しさ、それから先、どうしていいものやら行き詰ってしまった。ふと、娘の顔を見ると、娘の目が小弥太の目を見ていた。小弥太は、その時、娘の胸を吸っていたので、娘は、見下ろすように、下目で、小弥太を見ている感じだった。最初の激しい動きが止まってから、娘の逆襲が始まった。逆襲といっても、暴力ではない、メス特有の逆襲だ。娘は、口の端をちょっとあげて、艶然とした表情を浮かべると、一瞬のうちに、体を入れ替えた。今度は、小弥太の上に乗り、男の部分をまさぐり、それをいきなり口に含んだ。「!」小弥太の脳天に衝撃が走った。小弥太は、自分の切っ先に、娘の舌のちょっとざらざらした感触を感じた。小弥太は、すぐに果てた。小弥太は、えびぞりながら、激しく全身を痙攣させた。
それほどの快感だった。
果てながら、小弥太には、親分の弥太のことが浮かんだ。
弥太に対する反抗心、不満が、一気に解消していくのを感じた。いや、解消したのというのは、正確ではない。それまで、世の中全体に対する嫌悪の情が、弥太ひとりに向いていたのが、何か、ばからしく、急に視野が広がったように感じたのだ。弥太など何ほどでもない。弥太だけを見て、心乱していたことが、意味がなかったのだ、と悟った。
娘を見ると、娘は、また、艶然としたメスの表情を浮かべながら、果てた小弥太の男を、まだまさぐっていた。娘の舌が、ちろちろと動き、小弥太の男の先端を刺激し続けていた。若い小弥太はすぐに復活した。一度、情欲を爆発させた男の部分は、より一層、快感を強く感じるようになっている気がした。先ほどは、無我夢中で、何がなんだかわからないうちに果ててしまったのだが、今度は、やや落ち着いて、自分の状態を少し客観的に認識することができた。
娘の頭が、下半身から、上に上がってきた。それにつれて、娘のやわらかい身体の感触が、腹に、胸に、頸筋に感じられた。やがて、娘の息遣いが近づいてきた。そして、やわらかい唇が重ねられてきた。娘の息遣いが一層激しさを増した。しばらく、その感触に、陶然としていたが、ふっと、娘の頭が離れる気配があった。頭を巡らせると、娘が、小弥太の身体の上に乗りながら、上半身を起し、両手で、小弥太の男をつかみ、自分の女陰に導こうとしているのが見えた。そして、二度ほど試すように切っ先だけを入れてから、ぐっと腰を落とし、自分の中に収めた。娘は、大きな声を上げた。
小弥太の背中にも、電流が走った。そして、小弥太は、自分の男が味わう未知の感触を不思議に思った。「まるでうなぎのようじゃ」小弥太は、うなぎのぬるぬるした感触を思い出していた。娘が腰を使うと、また、すぐに果てた。

それから、何度も娘は、小弥太を導き、小弥太は何度も果てた。何度果てても、やめる気にはならなかった。小弥太は、娘に溺れた。
気がつくと、周囲は、赤く、夕暮れの気配が迫ってきていた。
娘は、ぐったりとした風情で、小弥太にしなだれかかっていた。その風情を見ると、小弥太の中に、今まで感じたことがない、甘い感情が湧き上がってきた。娘は、小弥太の胸をまさぐると、顔を近づけてきて、唇を求めてきた。小弥太は、娘の唇を吸った。ひとしきり、唇を吸いあって、離れると、娘は「……明日も」と小さな声で言った。

翌日は、朝から大雨が降った。
こんな天気だから、娘は来るまいと、思ったが、やっぱり足は、昨日の池のほとりに向かってしまった。
すると、木の陰から、娘が現われた。
雨を避け、大きな木の洞に隠れるようにして、再び、何度も情を交わした。

娘と別れて、むっつりと、弥太の洞に帰ってくると、弥太は、一瞬、じろりと探るような目つきをしたが何も言わなかった。しかし、弥太は、何事か気づいているような気がしてならなかった。

 そんな日々をひと月ほど過ごしただろうか、小弥太とほとんど毎日情を交わすようになって、娘は、ますます、肌が白く、艶めかしくなっていった。
 小弥太は、もうひと時も、娘と離したくないと思うようになっていた。そして、ある日、娘がやって来なくなることを恐れるようになった。昼、娘と会い、情を交わし、夜、弥太の洞に帰ってくると、言うに言えない焦燥感が、小弥太を悩ました。
「明日は、猪を獲りにいくぞ。明日は出かけるな」ある日、弥太が、寝際にそう言った。
 その言葉を聞いて、翌朝暗いうちに、小弥太は、弥太の元から姿を消した。

 二人だけの秘密の場所で出会ってから、小弥太は、娘に、「親分に背いてきた。もう親分のところには、帰れない」と言うと、娘は、まるで、それを予め知っていたように、小弥太に唇を押し当てて、ゆっくりとうなづいた。
 そして、また情を交わしてから、小弥太は、娘に手を引かれて、今まで、通ったことのない山道に分け入って行った。
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