芸術の監獄 グスタフ・クリムト

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芸術の監獄 グスタフ・クリムト( 3 / 4 )

そして、クリムトの画家としての探求心はずんずんエスカレートするのであった。この「探求心」とは、「正統的な、ヨーロッパ的な技法とは違ったことをやりたい」という欲求だ。クリムトファンの方なら「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 1」をご存知だろう。あれなどは非ヨーロッパ的な平面装飾の

見本市である。金箔、唐草文様、日本のきもののような鱗文様、文様を描けるだけ描いて、女性の顔は添え物となっている。手間はかかっているが、その手間は「装飾」のためのもの。つまりはクリムトの「新しい絵への実験」のためのものだ。モデルとなったアデーレの心中は、複雑だったのではなかろうか。ちなみに、アデーレは「ユディト」のモデルでもある。

アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 1 1907年 オーストリア美術館蔵

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つまりウィーン社会には、クリムトを「不道徳」と罵倒する層と、「いやー、さすがに先生の絵は斬新」とちやほやする層とがあったわけである。その断層がつくる戯画を、画家一人は冷徹に眺めていた。彼にはどちらも間抜けな俗物に見えていたのではないだろうか。彼自身は、版画家の家に生まれ、兄弟が多かったために生活は楽ではなく、生きるために工芸美術学校に入った。そこで「古典的なヨーロッパ絵画の技法」、すなわち厳格な模写や遠近法をたたき込まれ、在学中からすでに屋敷や劇場の装飾を請け負うまでになったのである。

 

このような画家が、ある程度名声を得たら「ありきたりの作品など描くものか!」と思うのは当然ではないか。前例などくそ食らえ、とうそぶくのが芸術家らしいのではないか。そしてその現れが、伝統ある大学に、女の裸が浮かんでいる絵を供することだったのだ。「道徳? 道徳はいつでも服を着ていなければ語れないものなの? 」クリムトは描きながらこう呟いていたのかもしれない。








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深良マユミ
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