孤島の天才

 反原発デモがきっかけで、私のためなら命をも捨ててもいいと言う、私にはもったいないような革命家の剛一と幸運にも結婚できました。でも、なぜか、二人の間には子供ができませんでした。それでも幸せでしたが、剛一は自分に原因があることを知っていたみたいで、精子をもらって、子供を作ることを提案しました。私は、死ぬほど悩みました。愛してもいない人の精子で子供を産んで、幸せになれるのかと。結局、私は、剛一の愛を信じ、子供をやどしました。

 

 あるとき、ベッドに横になっていた私の耳元で、そっと、剛一はささやきました。「人類を救う革命家を産んでくれ」そのとき、その意味は、よく分かりませんでした。その後、妊娠は順調で、立派な男の子が誕生しました。剛士が5歳の誕生日、あのときのように、剛一がそっと私の耳元でつぶやいたのです。「この子は、遺伝子組換えの革命家だ」と。

 

 そのときは、冗談を言っているんだろうと思っていましたが、遺伝子工学について調べていくうち、植物や動物だけでなく人間の遺伝子組換えの研究がなされていることを知りました。後日、剛一が言ったことを笑って否定してくださると思い、担当医だった安部先生に確認したところ、暗い影を残し、無言で立ち去りました。先生の後姿が意味することは、即座に理解できました。もう、頭が真っ白になり、死にたい気持ちで神に祈りました。神を冒涜してしまった私が、剛士を守るためにできることは、剛士の罪を一緒に背負い、神の許しを請うことしか頭に浮かびませんでした。

  ルミ子との思い出は、文字にあらわすことはできない。手が震え、涙で文字も見えない。ルミ子、許してくれるわね。さようなら、親愛なるルミ子。

 

春日信彦
作家:春日信彦
孤島の天才
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