静まり帰った部屋の中で喪服に身を包んだ人がおよそ20人程
棺を取り囲むように座っています。
その、棺の周りを3歳くらいの男の子が走り回っています。
母親の方に向かってぶつかっては、「ドーン」と言ってキャッ、キャッとはしゃぎ回っています。
普段は、親子3人しかいないこの家に今日は大勢の人が集まっていて男の子に
とってはまるでお祝いでもあるかのように一人ではしゃいでいます。
その子とは対照的にすすり泣く声が聞こえます。
男の子が明るく振る舞うほどその子が不憫に思えてきます。
母親は、「〇〇ちゃん、少し静かにしてね」と言うだけで疲れ切った顔で息子の頭を撫でていました。
「ねぇ~、パパどうして起きないの」と母親に聞いています。
「〇〇ちゃん、パパは疲れているから寝かせてあげようね」
男の子は棺を触りながら「パパのおうち?」と聞くと
「そうよ、綺麗なおうちでしょう」と母親は、息子に向かって少し笑みをみせる。
葬儀社の人が「それでは、最後に皆さんでお花を入れて頂きます」と言って
一人ずつ花を配ってお顔の周りに花を入れます。
その男の子も一輪の花を持って困惑しているが皆と同じようにいれます。
その子の祖母と思われる人が「〇〇ちゃんパパにバイバイしてね」と言うと
手のひらを広げて横に振っていますけど意味が判らないような顔をしています。
葬儀社の人が棺の蓋を持って来ると母親は男の子を抱いて棺から離しました。
蓋を閉じると同時に「パパを閉じ込めないで~。」と大きい声で叫びます。
葬儀社の人が「これより、ご出棺です。」と言って「男性の方6人程でお願いします。」
すると、その子が葬儀社の人の足を何度も叩きながら「閉じ込めないで~」と言い棺を持ちあげると「わ~っ連れていかないで~」と大声で泣き叫びます。
周りからは、大勢の女性のすすり泣く声がきこえました。
交通事故で突然父親が亡くなった事を知らなかった息子は、出棺で
初めて父の死を子供ながらに肌で感じたようでした。
ある日突然身内が目の前からいなくなる事がどれだけ辛い事か実感
させられました。
その子が父の死の悲しみを乗り越えて強く生きていく事を願うばかりです。