エウメニデス

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あげ、脱獄の可能性を増やしてあげるとは、なんという悪人に優しい思想だと思わずにはいられない。そうなのだ、私の勤めているシュタットフーヴァー刑務所は、よりによって、政治犯や詐欺や軽犯罪ではなく、凶悪犯の受刑者の刑務所なのだ。

だからわれわれ看守は、房を見回る際にはピストルと警棒を持っている。自衛する必要があるからだ。50人の受刑者が万一団結して刑務所長を人質にとるようなことがあってはならない。もちろん、脱走するのを防ぐべく、警察とのホットラインはいつでも開いている。また、受刑者の房のある棟は、塀に二重に囲まれており、その扉を開くには8桁の暗証番号が必要なのだ。最大の難関はこれであろう。房だけなら出られたとしても、刑務所の外に出るのはまず不可能に近い……刑務所側に受刑者への密通者がいなければ、の話だが。

 

2年前、自分の母親と妹を殺害した受刑者が、懲役6か月を過ぎたある日、首を吊った事件が起きた。

私には忘れられない事件だ。他ならぬ私が、その受刑者の房を点検していたからだ。それも自殺の前日に……独房内に自殺の道具やら武器やらを隠していないか、隠していたら取り上げることも看守の重要な仕事であるから、僕は所長に譴責をくらい、給料を10%返上させられた。

その後、内部調査があったらしい……らしいというのは、僕の身辺は探られなかったからだ。

彼が、首つりに使った紐をどう調達し、どう隠していたのかは、2か月後に分かった。ある看守が、自殺決行の数ヶ月前から、毎朝受刑者に届ける新聞に木綿糸を紛れ込ませていて、受刑者は夜にそれを手で寄り合わせて紐にして、下着の中に入れていたのだ。

私はその調査報告を読んで、そこまでして死にたいのなら死なせてあげて正解だったじゃないか、と誰にも言わずに毒づいた。

問題の看守は、調査報告が出た日に懲戒免職になった。彼はこの仕事には似合わしからぬ、お坊ちゃん然とした青年で弟のように思えたので、ときどき昼食を一緒にしたり、一度だけだが映画を観に行ったことがあった。なのでこの件には胸が潰れる思いがしたが、別の同僚はこう言った。

「あの、『ドラゴンフライ』(自殺した、母と妹を殺した受刑者のあだなである)の自殺幇助をしたあいつねえ……同性愛者だったんだって」

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深良マユミ
作家:深良マユミ
エウメニデス
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