さやかは亜紀の気持ちがわかっていた。亜紀はさやか以外の人に初めて心を許した。ドクターに対しても心を許さなかった亜紀が拓也には心を許した。決して人に笑顔を見せない亜紀が拓也にだけは笑顔を見せた。これは奇跡だった。このことはさやかにしかわからなかった。期待していた思いは一瞬にして打ち砕かれた。さやかはあきらめることにした。
さやかは亜紀を見つめ部屋を出ようと亜紀の手を引いた。
さやかは亜紀の手を引いたが亜紀は動こうとしなかった。亜紀はじっと拓也を見詰めた。亜紀は信頼できる人に出会えたことに感激していた。「さやかさん、亜紀ちゃんが本当に僕でいいと言うのなら、お父さんになるよ。もう一度、聞いてくれないか?」拓也は亜紀の鋭く熱い視線を感じ取っていた。「亜紀ちゃん、このおじちゃんがパパになってくれるって、うれしい?」さやかは膝を折り、目線を亜紀に合わせ笑顔で尋ねた。亜紀は二度大きく頷き、涙を流した。